初めて「コーニッシュの時計」を手に取ったときの驚きは、腕時計に造詣の深い方ほど大きいのではないでしょうか。腕時計に対する真っ当な「審美眼」をお持ちの方ならば、蓄積された愛好家としての見識や認識と、目の前の「コーニッシュ」という現実の間に、言葉にできない「ズレ」を感じることでしょう。
実際そこには、せいぜい10万円も出せば買える時計には見えない「かなり高度な満足」があるのです。「お安いですけど… ホンマに良いんですか??」みたいな、ちょっと申し訳ない気持ちになっちゃうくらい「お腹いっぱいにしてくれる時計」が (;´∀`)
腕時計の価値を見出す最もシンプルなメソッド
そもそも腕時計には、歴然たる「階層」が存在します。例えば私が「とある3万円の腕時計」に対して「めっちゃ良い腕時計やん!!」と勝手な評価を下したとしましょう。ですがそれは、あくまで同価格帯の腕時計たちを広く見渡した末に、何らかの個人的な基準を当てはめて「コイツだけは頭抜けてる!!」と感じた結果に過ぎません。対象の範囲を絞れば価値判断もし易くなりますからね。
恐らくはこれが、最も自然に無理なく「ある程度の正解」を導き出すための「最もシンプルなメソッド」ではないかと思います。私自身、腕時計の購入を目論んだ際、最初の「価値判断行動」として、この安直なメソッドを多用しています。
ある程度そんな経験を積み重ねると、詳細なスペックシートを見るまでもなく「評価できるかできないか」「欲しいか欲しくないか」の判断が下せるようになります。ところがです。昨年辺りからこの「鉄壁のメソッド」に亀裂が生じてきました。
何と言いましょうか…
実売価格を度外視して、やたら「優良な時計」が増えてきたのですよ (;゚Д゚)
マイクロブランドがしのぎを削る「10万円以下」の価格帯
昨年は有り難いことに多くの興味深い時計と出会うことができた私。一般庶民である私が、出会った時計の全てを購入できるはずもありませんが、それでも相当な数の腕時計をお迎えしたと思います (;´Д`)
それらは所謂「マイクロブランド」に括られるブランドの腕時計たちでした。人によっては「アンタそれ尋常じゃないから!!」と言われるほどのマイクロブランドに身銭を切って解ったことがあります。マイクロブランドとは謂わば「ボクシングにおける階級の一つ」なのです。つまり、マイクロブランドにはマイクロブランドの戦いがあって、そこには歴としたチャンピオンが君臨しているわけです。
「バルチック」や「ニバダ グレンヒェン」、そして「コーニッシュ」を楽しむ過程で、他の多くのマイクロブランドにも目が向くようになりました。それらには目指すべき「王座」があって、産声を上げた新興勢力たちは、それぞれが虎視眈々と天辺を狙っている… そう言う少々騒々しい階級が「マイクロブランド」なのだと理解するまでに、さして時間はかかりませんでした。
恐らく「全階級」に目を向けたとしても、マイクロブランドの作る腕時計の魅力は褪せないと思います。そもそも、広く世に知られたブランドが作る「10万円の時計」とマイクロブランドが作る「10万円の時計」は、同じ価格帯でありながら全く異なるベクトル上に存在しているのです。
マイクロブランドにとっての「10万円」の意味
よくよく考えてみれば、ブランドの利益を下支えさせるために大量生産される「10万円時計」と、ブランドの成否を担う高級ラインとしての「10万円時計」が、同じ熱量で生産されているわけがありません。これは与えられたポジションと役割の差が如実に現われた結果だと言えますが、少ない資本で成り立つマイクロブランドの事情… 「生産本数の少なさ」も相まって、マイクロブランドの作る「10万円時計」の方に特別な感慨を抱く方も少なくありません。私も同様… かもしれません。
10万円を出さずとも、驚きと感動をもたらす腕時計が手に入る「マイクロブランド」。その中にあっても、ある意味で特筆すべきブランドなのが「コーニッシュ」です (*´ω`*)
熱狂のソールドアウト「シエルノクターン」
昨年の「コーニッシュ」と言えば、兎にも角にも「アベンチュリン」… 驚異の高見え性能で腕時計関係者や愛好家をざわつかせた、日本150本限定の HMS watch store 別注モデル「ヘリテージ クロノグラフ シエル ノクターン」に尽きるでしょう。
例えば、事前の説明なしに数百万円の高級腕時計と「シエル ノクターン」をまぜこぜに陳列したなら、一体誰が「10万円以下で買える」時計だと思うでしょうか??
そもそも「コーニッシュ」は相当に見栄えがする部類の時計です。その華やかなルックスは、高級時計が数多居並ぶSNSであっても、気圧されることなく燦然と輝いています。
その優れた見た目とセンスの良さから、高級どころにも引けを取らなかった「シエル ノクターン」。故にずっと上位の価格帯に属する高級腕時計と真面目に比較される「フェアとは言えないシーン」も散見されました。それだけ凄かったということなんですけどね。人気と実力が。
とは言え、ほとんどの消費者には曲解されることなく魅力が届いていたと思います。だからこそ、販売店側もビックリの「超絶速攻でソールドアウト」を達成できたのです (*´∀`*)
「青い鳥」の飛翔で幕を開けた2024年のコーニッシュ
「シエル ノクターン」の売れ方は「祭り」と呼ぶに相応しい爆発的なものでした。その様子を極々近いところでワクワクしながら拝見させてもらいつつ、同時に思うところもあったのです。
『シエル ノクターンを超えるコーニッシュは今後現れるのだろうか??』
何を以て「超えた」とするかは言及を避けますが、絶対に点が欲しいところで必ず打ってくれる「代打の切り札」みたいな新作が登場しました。それが2024年1月発売の「ブルーバード」です。
思えば昭和育ち。自動車の好みで言えば「トヨタより断然日産派」だった私にしてみれば、やたらとエモーショナルな「ブルーバード」という名前の時計をスルーできるわけがありません。買うしかないんです。「ブルーバード」ですもん。SSSですもん。
「ブルーバード」の細部に斬り込む前に、コーニッシュの… 特に人気のある「ヘリテージ クロノグラフ」について私の思うところを書いておきます。
敢えて枕に「人気」と付けたのには理由があります。世の中、とかく人気者には風当たりが強くなるものですが、件の「ヘリテージ クロノグラフ」もその例外ではないようです。小耳に挟んだところでは「ダイヤルだけ変えて云々」と意見する方もいらっしゃるそうですが… ハッキリ言いましょう。そんなこと、どこのブランドでも同じです。
「HMS Watch Store」さんで「コーニッシュ」のカテゴリーページを見れば即座に解ることですが、これだけバリエーションを増やしても未だに人気に陰りが見えないのは何故か?? …そう言うことだと思います。要するに「飽きさせない」或いは「同型でも揃えたくなる中毒性がある」と考えるべきなのです。
これこそが「ヘリテージ クロノグラフ」の魅力の本質だと思いますし、最初期の段階から、安定した高いレベルのプロダクトが完成していたと考えた方が建設的です。そして、そんな小難しいことを考えなくても「格好良さ」や「センスの良さ」が伝わる「解りやすさ」こそが「ヘリテージ クロノグラフ」の人気を支えている大きな柱なのではないかと考えています。順調に売れているのに、変える必要なんてありませんよね??
静けさの中に揺るぎないコーニッシュの美学を秘めた「ブルーバード」
やたらと長い枕になってしまいましたが、お待たせしました!!「ヘリテージ クロノグラフ ブルーバード」のレビューを始めましょう。購入したからこそ解る魅力に迫りたいと思います。
神々しさすら漂う「ブルー」から目が離せない
私が「ブルーバード」を初めて見せていただいたのは、発売日の少し前のことでした。思わず「うおぉ!!」と変な声が出たのを覚えています(恐らく「青」と「うわぁ!!」が同時に発声されて『うおぉ』になったんでしょうね…)
とにかく印象的なダイヤル。目線を外すことを許さない「ブルー」がそこにはありました。神秘の森の奥深くに見付けた泉のように、心を洗われるが如き清廉な青色。それはあっという間に私のペラペラのお財布をこじ開け、購入を決意させるに十分なインパクトでした。
ダイヤル全体のブルーサンレイが印象的過ぎるが故に見落としがちですが、この「ブルーバード」のダイヤルのキモは、意図的に彩度と色相を変えた「3つの青のシンフォニー」にあると思います。
ただ、この「ブルーバード」のブルーに関して言えば、ダイヤル、サブダイヤル、針、それぞれの青を合わせることによる、単純な「ブルー同士の調和」を目的にしたコーディネートではないと思います。何故なら、全ての青が周辺光の影響で刻々と様変わりするわけですから、一枚絵のように固着したイメージを作り出すには限界があるからです。
ならば無原則に青を配置したかと言われれば、それは違うでしょう。私にはコーニッシュが、自然の織りなす「青の再現」を目指したように見えて仕方ありません。
「水」や「空気」の層が重なり現れる「奇跡の瞬間」。大袈裟かもしれませんが、私が「ブルーバード」の青を見た瞬間、ある種の神秘性を感じた理由はその辺りにあります (*´ω`*)
ブレゲ数字を使わない英断
コーニッシュさんの限定モデルと言えば「ブレゲ数字のインデックス」というイメージがありましたが、限定新作「ブルーバード」では飾りのないサンセリフ系数字が使われました。如何でしょうか?? たったこれだけのことですが、ブレゲ数字の「シエルノクターン」と比較して、ぐんとポップな印象に様変わりしたと思いませんか??
「ヘリテージ クロノグラフ」と言えば、バーインデックス或いはブレゲ数字インデックスのイメージがダントツで強いと思いますが、シンプルなゴシックで獲得した軽快なイメージも悪くありません。
いやそれどころか、インデックスに変化を付けたことで、これまでにリリースされた「明るい青の文字盤」との差別化を難なく達成。青いダイヤルに目がない誰かさんが、すでに「明るいブルーダイヤルのコーニッシュ」を持っていたとしても、負い目を感じることなく買える「全く別のモデル」になっていると思います (*´∀`*)
ダイヤルのバリエーションを受け止めてきた「母なるケース」を称えよ
腕時計は須くそうだと思いますが、ケースが弱いと他で何をしようが意味がないのです。史上最高に大好きな針が付いた時計であっても、ケースがダメダメなら… 買いますか??
ケースが難しいのは、その評価がケース単体によるものではないからです。ダイヤルや針、リューズや諸々をまとめて面倒見ることのできる「母の如き包容力」が評価されて初めて「素晴らしいケース」と認められます。
ならば、色とりどりのダイヤルを受け止めてきた「ヘリテージ クロノグラフのケース」は、誰もが理想とするオフクロさんそのもの。飽きのこないアウトラインを持つラグ。袖口で持て余すことない11.5ミリの厚み。横径39ミリのケースサイズは小さすぎず大きすぎず、今後も幅広く展開されるであろうシリーズの未来を担うに相応しい「頼れる足腰」なのです (*´∀`*)
鮮烈に時を告げるアズールブルーの針
青い針ですが青焼きではなく、広い視野角で鮮やかな発色が約束される「アルマイト仕上げ」です。針の形状は「アルファ」。ドーフィンの根元をキュッと絞ったシルエットが特徴的で、どこかキュートな印象もあるデザインです。インダイヤルカウンターの小さな針もお揃い。何だか可愛らしいですよね (*´∀`*)
ところが甘く見ていると時折「ギラッ!!」と輝いて、装着者に評価の上書きを迫ってくるのです。着けるたび何度でも新鮮な気持ちで「キレイだ…」と呟くことになるでしょう。
明るいブルーダイヤルの中でも十分な明度・彩度差が生じるため、視認性を犠牲にしない針です。コーニッシュさんは「デザイン重視で視認性を犠牲にしたように見えて、実はちゃんと考えている」みたいな配慮が巧みです。
標準ストラップは「ブルーバード」の魅力の一つ
「リサイクル・ナイロン製のストラップ」が標準装備されています。最初に拝見した際に思いましたが、このストラップが中々の出来です。すでにコーニッシュをお持ちの皆さま。機会があれば是非一度、現物を手にとってみて下さい。軽快な使い心地で、ちょっとクセになるタイプのストラップだと思います。
安心感のあるメカクォーツ「Seiko VK64」搭載
マイクロブランドの低価格帯クロノグラフを支えているユーティリティーなキャリバー、それが「Seiko VK64」です。機械式とクォーツ式の良いところを合わせ、キュッとパッケージングした「VK64」ならば、ギリギリまでコストを抑え、それでいて性能には一切妥協しなくて良い時計が完成します。
私も数種類の「VK64」を所持して思ったことですが、何だかちょっと嬉しくなるのです。何がですって?? もちろん「バチン!!」と瞬時に帰零するクロノ針のことです。要するにクォーツのクロノグラフで多くの機械式マニアさんが何となく「いやだなぁ」と感じる「スイープバック」を見なくて済むのです。それでいて月差±20秒…「クオーツの精度」ですからねぇ。
「ブルーバード」の惜しいところ(汗)
う~ん… 時刻の視認性は守られているのですが… 「タキメータースケール」がかなり見づらいかもです。これは私の目が「近視・乱視・老眼」のトリプルコンボを達成しているからなのですが… そうは言っても、明るいブルーのダイヤルに白線で記されたスケールは、誰にとっても少々しんどいと思います(汗)
ただ「だったらどんな色で記せばよかったのさ!!」と聞かれたとしても、決定的な答えは見付かりそうにありません。現役のグラフィックデザイナーであり、プロダクトデザイン経験者である私にしても、最適解は導き出せませんでした。
可能性としては、針に使われているアズールブルーで描いてくれたら視認性は向上したと思います。ですが、間違いなくダサくなるんです。脳内でシミュレートしてみましたが、すぐに「アカンアカンでぇ!!」となりましたもん (;´∀`)
というわけで、デザイン重視の結果が、このタキメーターの「見づらさの理由」であると納得することにしました。角度によってはタキメーターがスッと見えなくなって、非常にシンプルなデザインに早変わり… うん。それで良いことにしましょう(笑)
最後に… 2024年も油断は禁物「コーニッシュ」に注視せよ
「コーニッシュの限定モデル、ここに極まれり!!」と多くの愛好家が感じたであろう「シエル ノクターン」。その後に続く限定モデルの展開には、些か慎重にならざるを得ない難しさがあったと思います。光あるところに影がある… 「シエル ノクターン」が多くのファンの心を掴んだからこそ、それに続く限定品に求められる要求は、ある意味不当に高くなりがちです。
ところがコーニッシュさんは、この難題にも「ほぼ満点解答」を出してくれました。複雑に絡み合った「可能性の導線」の中から、よくぞ正答を導き出したと思います。「ブルーバード」の方向性は、それほどまでに「なるほど!!」と納得できるものでした。
ただ、これでまた今後の展開の難易度は確実に上がりました。お小遣いを貯めて「次の限定モデル」を待つ「大きいお兄ちゃん」たちの期待も膨らむ一方でしょう (*´∀`*)
果たしてコーニッシュさんは、この難問の高いハードルを越えることができるでしょうか?? 引き続きヘリテージ クロノグラフには「無限の可能性がある」と示すことができるでしょうか??
最後に、果てしない探求の道を歩むコーニッシュさんの助けになるかは疑問ですが「ブルーバード」を手にしたことで湧いてきたアイデアを披露したいと思います。
「ブルーバード」の銀文字盤… 「シルバーバード」を作って下さい。試しに画像をモノクロ化してみたら「これヤバい!!」みたいなのができちゃいまして。ってなわけで、間違いなく格好良い時計になりますからお願いします。出してくれたら間違いなく買いますからね(笑)
追記です
限定品の宿命と申しましょうか… もしかしたら、日本国内で販売される本数はすでに売り切れている可能性があります。
HMS Watch Store の表参道店さんに聞いた話だと、発売2日間でお店の取り扱い分は残り1本だそうです。それから随分と時間も経過していますから、もしかするとすでに…
確認したらHMSさん在庫切れでした…すみません~(汗)
煽っておいてホンマにすみません。人気限定モデルの性… コーニッシュさんの限定の性と言うことで、お許し下さい。でもホラ!! コーニッシュさんの公式サイトは「在庫あり」のステータスですから、そちらを狙っても良いかもしれませんよ?? (;´∀`)
Corniche Heritage Chronograph Bluebird Chronograph 諸元
ケース縦幅 | 47mm |
ケース横幅 | 39mm |
ケース厚み | 11.5mm |
ラグ幅 | 20mm |
着用範囲(手首径) | 約15.5~20cm |
ケース素材 | 316Lステンレススチール |
ストラップ素材 | ファブリック、カーフレザー |
風防 | ダブルAR+指紋防止コーティングサファイアガラス |
防水性能 | 5ATM |
ムーブメント | Seiko VK64(メカクォーツ) 精度:月差±20秒 耐磁:1,600A/m |
主要機能 | クロノグラフ |
ご意見・ご感想
コメント一覧 (2件)
砂布巾さん
こんにちわ、黒海月です。
コーニッシュ・・・、これまた煩悩を掻き立てるブランドですね。
メカクォーツってだけでも欲しくなるのに、デザインやサイズ感がまた良さげ^_^
今年は、KURONOTOKYOのアレにも参戦したいし(あるのかな?)、F77は気になるし、TSUYOSAもあるわ、物欲がどーにもならんですね〜。
黒海月さま。良いですよ~「コーニッシュ」。
あの絶妙な価格設定が悩ましいんですよね~(笑)
パテックやランゲの「あの辺」がお好きなら、間違いなく刺さると思います。
「F77」もめちゃくちゃ格好良いですよ!!「TSUYOSA」も!!(笑)
どれも現物見ちゃったら… です (*´ω`*)