本当は書きたくないんです。書きたくないって言うか、この時計の存在を誰にも知らせたくない。だって… 絶対に「ライバル」が増えちゃいますもん。
ですから今回はボクシングで言うところの「リードパンチ」みたいな内容です。インプレッション記事の類いではありますが、どちらかと言えば「ポチるなよ~ 買うなよ~」と皆さまを牽制しつつ書かせていただきます (;´∀`)
松下庵のオマージュウォッチ「M74 Vintage California」現物を見まくってきました!!
某日、弊サイトの企画に協賛していただいたお礼のご挨拶で「浅草・松下庵」さんを訪ねた際のことです。その日はこれまた、いつにも増して沢山のお客さんでごった返していました。
この混雑時に割り込んでしまった自分自身、何だかとても申し訳ない気持ちになりまして。長居は止そうと持参したお土産のどら焼き(ドラえもんのどら焼きのモデルと教えられた銘菓)をお渡しして「また来ますね~」みたいな体裁で疾風のように去ろうとした… その刹那でした。
「あ、そう言えば!!」… そう、思い出しちゃったんです。松下庵さんのSNSやYouTubeでチラッと見てしまった「例のアレ」のことを。西新宿から40分かけて浅草にやってきたわけですし、折角なので実物を拝見させていただくことにしました。
例のアレとは… もちろんアレのこと。「7月4日」に公式サイトでの発売が予定されている、1940年代のイタリアで海軍特殊部隊に支給され、潜水任務や特殊作戦で使用された軍用時計のオマージュウォッチ「M74 Vintage California」のことでございます。いやぁ… 見ない方が良かったかもしれません。まさかこれほどまでに「罪深い」逸品だとは。
「これだから『腕時計趣味の辞め時』は難しいんだ」と「M74 Vintage California」を前にしてつくづく思いました。だってそうじゃないですか?? 昨今の馬鹿みたいな高騰で精根尽き果て「ここいらが潮時か… 」と黄昏れた気持ちになりかけていたところに、こんなにも心奮わせる「面白い時計」が出現するのですから。ホント、見なきゃ良かったなぁ (;´∀`)
さらに申せば、今年は昨年を凌駕する勢いで腕時計を買ってしまっている馬鹿な私です。こちらからお願いしたリクエスト案件については粛々と回収するとしても「余程のことがない限りこの先の腕時計購入は見送る」と決意(?)したその矢先に「M74 Vintage California」を見てしまったわけです。何で見ちゃったんだろう… 欲しくなるに決まっているのに (;´Д`)
何が何でも欲しい!!「M74 Vintage California」
ここまで強い印象を残されては仕方がありません。いや… 自分に嘘をつくな!! 欲しいんだろ?? 単純に欲しくなっちゃったんだろ?? (;´Д`)
ぶっちゃけその通りで、実物の「見る」「触る」「操作する」を経てリアリティーを増した「M74 Vintage California」に心底やられました。松下庵を出たあともその「残照」は一向に消えず「それにしても『M74 Vintage』良かったなぁ」「何とかして手に入れたいなぁ」との想いは、数日経った今も色濃いままです。
反面、何とかして「買わないで済む理由」を探している自分もいるのです。と言うのも実は近々、所有するパネライのうちの一本「ラジオミール ブラックシール ロゴ」を売り払うつもりなのです。そんなことを考えている私が「M74 Vintage California」を購入するとおかしなことになっちゃうでしょ?? (;´∀`)
ワイヤーラグの典型的なスタイルを持つラジオミールを売ってから、よく似たオマージュウォッチである「M74 Vintage California」を手に入れる… これって、欲しいのか手放したいのか、常識的によく解らない行為です。普通に考えたら「ブラックシール」を残しますよね??
正直言えば、シンプルな「ブラックシール」は大好きなデザインですし、できることなら売らずに残しておきたいところです。ですが、現在進行中の「砂布巾コレクション シュリンク大作戦(手持ちの時計を最終的には32本まで減らす高難易度のプロジェクト)」のルールに従うとすれば、高級ブランドの「2本持ち」は可能な限り避けたいのです。
腕時計販売店の公式サイト、そのトップに並ぶような有名ブランドの時計に関しては、いずれ「所有は1本ずつ」に限定していきたい。その分「ブランドの守備範囲」を広げていければ良いと考えています。
何なら「オマージュウォッチは別腹」と強弁することもできるでしょう。しかし「パネライと松下庵」の熱すぎる関係性を思うとき、それを単純なオマージュと括って良いかについては疑問です。世界中見渡しても、これほどまでにパネライを「男前に見せるストラップ」は存在しません。実際、純正よりも断然格好良いくらい。これは松下代表が「パネライ以上にパネライの歴史を理解している」からこそできることだと私は考えています。
であるならば、そんな松下庵の松下代表と次代を担う若き才能(土井さん)が精魂込めて作った「オマージュウォッチ」だってある意味、同じかもしれません。ならば「別腹」などとセコい考えで無理矢理に自分自身を納得させなくとも、堂々と「むしろパネライよりもイタリア海軍特殊部隊っぽい時計」という特殊枠で買えば良いじゃないか… 取り敢えず、私の頭の中にある「腕時計大法廷」は、このように判決を出しました。どうやら陪審員は全員、度し難い時計好きみたいです (;´∀`)
要するにここまでして「常識人の自分」をねじ伏せてでも、絶対に欲しい時計なんですよ。私にとって「M74 Vintage California」という時計は (;´∀`)
「M74 Vintage California」が投影する『いにしえのアイドルウォッチ』
国際競売で取り扱われるレベルのレアピース「ROLEX PANERAI 3646」。ある日偶然、松下庵さんに持ち込まれたヴィンテージパネライ随一のアイドル「3646」の衝撃は、その後の「M74 Vintage California」誕生にも大きな影響を与えたでしょう。歴史的なパネライを目の当たりにした松下代表から興奮気味に聞かされた「3646」の逸話… それは筋金入りのパネリスティである松下代表にしても、相当にインパクトのある出会いであったことを物語っていました。
古豪ブランドなら少なからず「伝説的なアーカイブ」を有しているものです。ただ、博物館級のそれらを街中で気軽に使うわけにもいかず、例え使えるコンディションであっても、相当な気遣いが必要であることは間違いありません。気遣いとは要するに、有数のコレクターが行うような「熟知した扱い」のことです。
そもそも私たちが幾ら「ROLEX PANERAI 3646」に憧憬を抱いても、それは易々と手に入る時計ではないですしね。手に入れられたとしても、知識も経験もなしに使って良い時計ではありません (;´Д`)
そこで「オマージュウォッチ」の出番なのです。それは現代の技術で作られた「スーパーアイドルの現し身」とも言うべき存在。
見た目はヴィンテージでも現代の加工技術で作られたそれは、問題なく現代の生活に落とし込めるだけの性能を有しています。「M74 Vintage California」を作製した土井さん曰く「実際に潜れますからね」とのこと。それは「いつでもどこでもガシガシ使って良し!!」な時計であることを意味しています 。見た目に反して (*´∀`*)
往年のお宝を模した時代感たっぷりのアウトラインながら、毎日連れて歩ける気兼ねのいらなさが魅力の「M74 Vintage California」。パネライ大好きの皆さんはもちろん、大型の時計に興味の無い方にとっても相当にやばい。かなりグラグラしちゃう時計だと思います。
魂の「ダメージ加工」は『腕時計愛の賜物』である
「M74 Vintage California」を作っている期間中、松下庵の工房スペースでは普段聞き慣れない音が響いていたそうです。それはケースに深い打痕のような「傷」を刻む音。真新しいケースにヤスリでガリガリと傷を付けるなんて、松下庵スタッフの時計技術者・土井さんの普段のクリエイティブを思えば、それは明らかに真逆のアクティビティです。
これだけ思い切った「ダメージ加工」はご本人も初めての経験だったそうですが、私の目にはとても初めてとは思えない仕上がりに見えました。何より私が才能を感じたのは、こういった加工に大切な「時間経過」と「オートマティズム表現」への高度な理解が垣間見えたところです。
ダメージやエイジング加工の「失敗例」で最たる物は「ただの汚れに見える」ことに尽きると思います。これは加工担当者の頭の中で「こんな風に使い続けたらこんなふうに枯れる」といった「想像力が欠如」している場合に起きます。安い壁紙の木目がまるで「ギャグ」にしか見えないのも同様。そして想像力の欠如を補うために行われる「作業のパターン化」が、さらなるチープさを生んでしまうのです。
結局のところ腕時計を愛し、ともに過ごした豊かな時間と経験が無ければ「リアルな枯れ」を表現することなど、絶対に不可能でしょう。
若くして腕時計に関する様々な造詣を蓄えてきた土井さんが作った「M74 Vintage California」は違いました。高い技術とともに垣間見える「腕時計への深い理解」。それらが何やら形容しがたい熱量となって、熱い熱い松下代表の下で作るに相応しい「未曾有のオマージュウォッチ」が完成したのです。
これは私の想像に過ぎませんが、松下代表のアドバイス、特に「ROLEX PANERAI 3646」の現物を預かった際の「感動のフィードバック」が、完成度上昇に一役買っているのではないでしょうか?? でなければ、これほどまでにピュアな憧れを詰め込んだオマージュウォッチは、生まれないと思うのです (*´ω`*)
搭載するユニタス「6497 / 6498」にもダメージ加工
オリジナルの「3646」は「コルトベルト 618」搭載(だと思います)。ブレゲヘアスプリングと優れた脱進機。堅牢さと美しさを兼ね備えた機械で、かつてはロレックスなど多くのブランドに独自のムーブメントを供給していた、スイスのマニファクチュールです。
ちなみに「コルトベルト」と言えば、かつて松下庵さんにはこんなオマージュウォッチがありまして…
今度行ったとき見せてもらえるかな~ (*´∇`*)
希少性では及ばないものの「M74 Vintage California」にはスイス製ユニタス「6497 / 6498」が搭載されています。長寿命でメンテナンスも容易。これだってもはや語るまでもないくらいの名機です。「M74 Vintage California」の場合は、そこに「これでもか!!」とダメージ加工を施して搭載。
実際、ヴィンテージ時計の裏蓋を開けると、意外なほど新しく見えるムーブメントが顔を出すことがあります。固着したオイルの類いでぐしゃぐしゃに見えるムーブメントであっても、洗浄すると「あれま!!」と驚くくらいキレイになったりするものです。
そう考えると、この「傷だらけに加工したユニタス」はリアルな年月経過表現とは言えません。ただ、玉手箱を開けたように一気に老けた(老けさせた)ケースやダイヤルに対して、裏側から透けて見える「ユニタス」だけがピッカピカでは絵になりません。だからと言って真っ黒く変色した汚いオイルで汚すのも考え物。そちらの方がリアルではあるのでしょうが、折角の裏透けから汚いものを見たいですか?? 私はノーサンキューです (;´Д`)
恐らくはその辺りへの配慮があって、ファンタジー的な加工が成されたのだと思います。「ある日、現役を退いて久しい老時計師の引き出しに、傷だらけのオールドムーブメントを見付けた」… そんなストーリーを背景にすれば、こんな感じにスクラッチされた外見であっても不自然さはありません。結局はセンスなんですね。よく考えられていると思います (*´∀`*)
「M74 Vintage California」は『松下庵』が作ることに意味がある
「オマージュウォッチ」と呼ばれる時計は幾らでも存在します。しかし、本当の意味でモチーフの時計に憧れて作られた時計は、そう多くありません。「人気のアレに似せておけば売れるかもね!!」… 悲しいかな、そんな低い志で作られたオマージュが大半です。
実のところ「成功するオマージュウォッチ」には沢山の課題があって、中でも達成しづらいのが「見えない雰囲気の再現」ではないかと思います。オリジナルの時計が醸し出す空気のような物を熟知しているマニアが触れたとき「こ、これはまんざらでもないぞ!!」と直感できなければ、それは興味の対象にすらなれない「まがい物」に過ぎません。
1940年代のイタリア海軍特殊部隊に支給されていた軍用時計の写し身である「M74 Vintage California」の実物を拝見した際、許可を得てリューズを操作してみました。ねじ込まれたリューズを徐々に緩めていく過程で漫画のように上がる私の口角。だって、私が持っている「ブラックシール」とまんま同じ感触なんですもん。腕時計マニアなら絶対にニヤニヤしちゃいますよ (*´∇`*)
識別可能な個性を持つダイヤルを、一つずつつぶさに拝見した際に感じた愛おしさ。それは紛れもなく「M74 Vintage California」というオマージュウォッチを、私の五感が「逸品」として認めた瞬間だったと思います。
欲しい個体はすでに決まっています。理由は明快ですし金輪際ブレることはないでしょう。あとは7月4日0時…「74の日」のオンライン販売開始を待って、その一瞬に趨勢を委ねるのみです。
でもなぁ… KURONO TOKYOさんでも、かつて実施されていた「購入権抽選」は全部ハズしてるんですよねぇ。大塚ローテックさんの抽選も連続でハズしてますし…
ですので、これをお読みになった皆さんがふいに興味をお持ちになって、競争率が上昇すると困っちゃうのです (;´∀`)
皆さんにお願いです。私が早い者勝ちの購入に成功するまで、少しだけ… 少しだけ待って下さい。何なら発売開始直後の5分だけ猶予を下さい。その後はご自由になさって構いませんから。ね?? ね??
最後に… 名言「商売っ気を出したらダメ」の真意
私がフリーのクリエーターだった時代、中々安定しない収入を改善するためには「仕事の数をこなす」か「単価を高く設定するか」しかありませんでした。ところが、単価の値上げには何らかの説得材料が必要です。「材料費の高騰により」… 腕時計値上げの言い訳として耳にタコができるくらい聞かされてきた「常套句」も、私のようなクリエーター商売には余り意味を成しません。余程高価な紙や絵の具を使えば多少のコスト差は出ますが、それにしても微々たるものでしょう。
ですから、フリーのクリエーターが「単価の上乗せ」を目論む際の言い訳は、そのほとんどが「特別な手間がかかっているから」でした。数にも形にもならず、誰のメリットにもならない「手間賃」をかさ増しすることで、ギャラの総額を上げるしかなかったのです。
ところが、クリエーターにとって「手間賃云々」の交渉は「プライドを捨てるに等しい」ものなのです。だってそうじゃないですか?? 私が最大限死ぬほど頑張って生み出した仕事と同程度、いや、それ以上の仕事を、いとも容易くやってしまえるクリエーターがゴロゴロ存在していたわけですから。要するに私の「努力」や「手間」なんて、たかが知れているわけです。
クライアントに「今回は手間が掛かりまして… 」なんて訴える時点でそれは「完全な甘え」。自分の能力のなさを宣言しているような気さえしましたし、創作の純粋な部分を汚しているようにも感じました。創作にとって手間なんてものは掛かって当たり前で、本来はその「影の部分」を人に見せたり過剰にアピールしてはいけないのです。ましてや「手間」で金銭を得るなんて…
「M74 Vintage California」のインプレッション記事を書きます!! と松下さんに伝えた直後のやり取りの中に「こういう物は商売っ気を出したらダメなんです!!」という「刺さる一文」がありました。恐らくそれは、かつて私が「手間賃を要求する」ことにクリエーターとしての「邪」を感じた部分に、極めて近い考え方ではないかと。
もの作りの「純粋性」を追求する厳しい姿勢は、私が松下庵に「やられた魅力」の最たるものですが、この「M74 Vintage California」のストイックさもスゴい!! 標準装備のストラップは松下庵謹製「ベンズレザーNATO」ですし。そこにこれまた松下庵謹製の「ウォッチポーチ」が付属です。皆さん、ざっくりで良いですから、このアイテム2つを合算したら幾らになるか、イメージしてみて下さい。イメージできましたか?? 解りますよね??
で、これが「M74 Vintage California」のお値段です。
「26万4000円」
ワケ解らんでしょ?? 自分に厳しすぎる(笑)
真面目に真面目に、只々、憧憬を形にすべく真っ直ぐに作られた「M74 Vintage California」。恐らく他のどのメーカー、どのブランドが作ったとしても、ここまでの感動は得られなかったでしょう。憧れの腕時計に想いを寄せるマニアたちの夢を妥協することなく「形」にし続けてきた「松下庵」だからこそ「伝説的な軍用腕時計の復刻」にも特段の説得力が出たのです。
そして、これも私の想像に過ぎませんが、松下代表が作るストラップのベストパートナーとしての役割も「M74 Vintage California」にはあるのではないかと思います。これは有数のストラップメーカーである松下庵にしかできないアプローチです。
あぁ… 本当に今回は書きたくなかった。こんなにワクワクする腕時計がもうすぐ発売です!! なんて誰にも知らせたくなかったですよ。ところが何故だ!! 同時に「皆さんに知らせなくては!!」という奇妙な「使命感」も感じるのでした。てなわけで、松下さんに内容の事前チェックをお願いし、許可を得て公開させていただきました。
この先、ラッキーにも「M74 Vintage California」を買えた方がいらっしゃいましたら、どうかここにコメントを書き込んで下さい。もしも私が買えたなら… 必ず続編を書かせていただきます。あぁ~ コンニャロ~ 絶対に欲しいぞ~ (;´∀`)
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