「一般社団法人日本流行色協会」さんによると、ファッション業界には古くから「不景気になると地味な色が流行る」という言葉があるそうです。まぁ、何となく解りますよね??誰だって経済的なゆとりが無いときは「無難な色」を選んで、着回しし易いようにと考えてしまうものです。
確かにファストファッション大手のコレクションを見ても、白黒やアースカラーばかりで「どっちを見てもモノトーン」みたいな感じです。もちろんこれは、今の消費者にとって買いやすくメリットのある話だとは思います。適当に買ったとしても、ある程度はコーディネートが纏まっちゃいますし、そもそも「誰が着てもサマになる」色味ですしね(;´∀`)
オイパペに端を発したブーム
ところで、この「不景気になると地味な色が流行る」定義に逆らうかのようなブームが起きています。それが、腕時計「カラーダイヤル」の大流行です。
その起点となったのは、ロレックスさんの「オイスター パーペチュアル」で間違いないと思います。特に「ターコイズブルー」のダイヤル。未だ必死になって探し求めている方も少なくないでしょう。レトロなワーゲンバスみたいで可愛らしいお色味…確かにキレイですが、二次市場での価格高騰は常軌を逸しています。幾ら何でも…オイパペですよ??(笑)
オイパペの後を追走するかのように、今年3月に発表されたオメガさんの「シーマスター アクアテラ」に対しては、正直申して「そこまでせんでも…」と感じた私。「この波に乗らなきゃ損!!」ってな雰囲気が痛々しくて、この先もオメガさんについて行っていいのか考えてしまったくらいです。サイズ展開もそれっぽい感じで寄せてきましたしね。欲しいか欲しくないかで言えば「間違いなく欲しい」んですけど、同時にアレはどうなのかという真っ当な思いも(;´∀`)
ダイヤルの初期カラーも変化
言い換えれば、それくらいのインパクトを業界に与えた「オイパペのカラーダイヤル展開」。当然ながらオメガさんのみならず、多くのブランド、メゾンにも影響を与えることになりました。
例えば、新製品のリリース時に揃える「基本色」の考え方が変わってきたと思います。それまでの「ブラック」や「シルバー(ホワイト)」「グレー」「ブルー」といった定番に加え、パステル調の色味を最初から準備するブランドも増えました。
重厚な歴史で知られる古豪のブランドには、そのファン層を考えると難しい舵取りなのかもしれません。ですが、支えてくれるファン層がある程度若い、或いは柔軟な思考の持ち主たちである場合は「軽薄」と言われるリスクを恐れず挑戦できるでしょう。そういう文化的な下地のあるブランドなら「カラーダイヤルの展開」は今のところメリットしかありません(って考えると、オーデマ・ピゲ「CODE 11.59」のエグい色展開は凄すぎますね!!外しが一つも無いんですから)
カラー展開のメリットは中堅以下に
ましてや「高級」と付かない中堅以下のブランドなら、そのメリットはさらに高まるでしょう。それなりの技術と手間を要するとしても、その他の仕様を一切変えずに「ダイアルの変更」だけで「新しい価値」を付与できるからです。
この「カラーダイヤルブーム」は恐らく時限式で、来年あたりには廃れている可能性もあります。要するに展開するにしても「スピードが命」であり、もたもたと「来年でエエわ~」なんてやっていると、貴重な商機を失うかもしれないのです。フットワークの軽い新興メゾンにこそ、カラーダイヤル展開のメリットは大きいと考える所以です。
色の魔法は「ジン」すらも巻き込んで
それで言うと私が一番意外に感じて驚いたのは、ジン(Sinn)さんが放った「556のカラーダイヤルシリーズ」。限定ということですが「アクアテラ」とほぼ同じタイミングで発表されましたし、ジンさんとしては珍しく「非常に戦略的な意図」を感じました。
確かに、ジンさんのコレクションで最もシンプルな「556」は遊びの猶予を残す「懐の深い時計」だと思います。しかし、無骨で力強いケース、飾り気のないハンド(針)にインデックス…シンプルとは言えドイツ物らしい「男臭さ」を纏うこれらに対し、果たして「パステルトーンのダイアル」は有りなのか…
こう言うのを「ギャップ萌え」と呼ぶのでしょう。
艶を抑えたダイアルは、カラフルでありながらどこか上品で律儀な印象に仕上がっています。ただ一言…これはズルい(笑)
世界限定400本ということで、すでに入手が困難になりつつあるカラーもあるようです。税込価格「27万5000円」…プレーンな「556.M(SSブレス)」よりもお高いのは残念ですが、それでも昨今の腕時計高騰、それも「限定商法」の無茶ぶりを考えたら、至極良心的と言えるかもしれません。実際すご~く欲しいんです。ワタクシ(;´∀`)
カワイイ系のジンに戸惑いも
ただ…これは私が、曲がりなりにもジンさんのファンであるが故の葛藤なのかもしれませんが、気持ちの半分は「ジンでこんなカワイイ系の時計を買っていいのか??」という抵抗もあるのです。やはりこの先もジンさんには「計測器」としての腕時計を期待していますし、女子供が見向きもしないオーバースペックな「野郎時計」であって欲しいのです。なんせ「特殊時計会社」なんですからね。このコア部分を外せないファンは沢山いると思うのです(;´Д`)
そりゃあ私みたいなユーザーが、これまでのイメージをムダに引きずってるだけかも知れませんよ??だけど、ツール系ウォッチが大好きな人間からすれば、ジンさんは「最後の砦」であり、頼れる「兄貴」なんですよ。これから先も無骨で一本気で、チャラいことには見向きもしない、バンカラ硬派な「ジンの兄貴」でいて欲しいワケでして…
兄貴!!それどうしたんすか!?
なにがだ??
その「ポリバケツ色」のTシャツ…ジンの兄貴っぽくないっす!!
…流行ってるんだよ
え!?
だから、可愛い色が流行ってるんだよ!!
漢は黙って「黒」か「白」って言ってたじゃないすか!?
硬派な兄貴が流行りもの追うなんて…オレ…幻滅っす!!
※「男塾」風の絵柄初めて描きましたよ(汗)
「ジンの兄貴の舎弟(支持者)」の質を考えたら、こんな反発もあったと思うんですよ。「チョロいことやってんじゃねぇ!!」みたいな(笑)
可愛くてもジンはジンだった
「903」愛用者の私にしても、ジンさんの「カワイイ路線」には一瞬たじろぎました。だってジンさんですもん。こういう「流行りもの」には軽々しく迎合しないだろう…そんな風に勝手に思っていたのです(;´∀`)
ところが完成品を見れば「カワイイ」と「男臭い」が渾然一体…まるで「薬用養命酒」のように溶け合った意欲作じゃないですか。ただ単にカラーダイヤルにしたワケじゃない、紛れもなく「ジン特殊時計会社の時計」だったのです。
推しのブランドが路線を変更すれば、私にしても少なからず心理的な抵抗を感じます。ただ、それを「成長」と捉えるなら、飛躍の布石としてのカラーダイヤルは悪くないかもしれません。
不景気な空気を変える「カラーダイヤル」
新型コロナの流行以降、特に日本経済の停滞は目を覆うばかり。不景気という単純な言葉では括れないような非常事態に対し、一向に改善の予兆すら見えません。
「不景気になると地味な色が流行る」とは主に着衣に対しての言葉ですが、もしかすると、不景気に疲れた私たちの心こそが「地味なモノトーン」で覆われているのではないでしょうか??
目に触れる面積の広い洋服に対しては「着回し」を考え「無難な配色」を心がけるとしても、小さな「腕時計」くらいには、ビビットな色合いを求めても良いのではないか…昨今の「カラーダイヤル化の加速」が、その辺りの心理状態を見越してもモノだとしたら…先の見えない漢たちの日々に、彩りを与えてくれるモノだとしたら…受け入れるべきは、私のような頭の固い腕時計愛好家なのかも知れません。
こんな時代だからこそ…漢だって「カワイイ」が欲しくなるのさ…
何か兄貴が上手いこと言ってくれました(笑)
それでは、本日はこの辺で(*´∀`)
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