腕時計愛好家には2つの人種がいます。一つは、常に最新の腕時計を追い続ける「進取の気風に満ちた人」。もう一つは、各々の時代の時計を、それぞれ独立した個性として並列に捉え、価値を見出す「ノスタルジック嗜好な人」。
私は完全に後者です。
「腕時計」なんて趣味で考えると、それはある意味厄介な価値観でして。過ぎ去った時代を切り捨てる「努力」を怠った結果、私の脳裏には過去の名作たちの勇姿がこびり付いて離れないのですから。
特に後継のモデルが存在せず「断絶」してしまったラインアップはマジでヤバい。そういう時計は私から見れば「哀愁の塊」なのです。後継機が生まれなかったくらいですから、当該のブランドにとってそれは「外道」なわけですよ。孤独な「アウトサイダー」…最終的な生産数が多かろうはずもないのです。
中古を扱うお店でそういう「断絶モデル」を見かけると、例え自分で購入に至らなくとも、せめて網膜には焼き付けておこうと必死に凝視する私。二度とお目にかかれないかもしれないと考えると、文字通り「一期一会」の機会ですからね。例えば、2007年に現行モデルが発表される前の「ミルガウス」なんかも「断絶モデル」として、その典型だったかもしれません。
今回入手した時計は、私が「腕時計めっちゃ好きかも?」と意識し始めたころにリリースされたモデルです。「ジャガー・ルクルトで絶対に一本!」と鼻息荒くブティックに赴いた当時、それは他を圧倒する存在感で私の記憶に深く刻まれたのでした。
これは「運命」だったのかもしれません。見えない「赤い糸」は、かろうじて繋がっていたのでしょう。このレベルソ「スクアドラ」と。
ジャガー・ルクルト
『レベルソ スクアドラ ホームタイム』
どうですか、懐かしいでしょ?
当たり前ですが、現行モデルではないので「中古」です(笑)
それにしても四角い。連続する正方形、まるでロイドライトだ。
「アールデコ」と「現代のサイズ感」が時代の分岐点でオフセット衝突してしまった結果の「愛すべき違和感」。こういう「視覚と記憶」に引っ掛かる「変態時計」大好物です(*´∇`*)
商品到着後、梱包を開封してすぐに、細部まで徹底的にクリーニング。その後「クリスタルガード クロノアーマー」の塗布まで行いました。この流れ…すでに何かの儀式のようだ(;´∀`)
ですが、実際はクリーニングなど必要のないくらい、業者さんの配慮で美しく仕上げられた状態でした。これなら、そのまま使っちゃう人の方が多いかもしれません。
それでは、失礼して…
くるん。
シャキーン!!
う~ん…マジで懐かしい(笑)
ケースモジュールをひっくり返すこの感じ…実に久しぶりです。マニュファクチュールのキャリバー「977」が色気たっぷりに私の視線を釘付け。この上品なコート・ド・ジュネーブの艶めかしさよ(//∇//)
そういえば、レベルソの「デュオ」を初めて拝見した際、こんな風に感じたことを思い出しました。
「開発当時の目的を完全に忘れとるな」と。
ポロの競技中に起こる風防の破損。どうすれば防ぐことができるものやら…「それなら、いっそひっくり返したれ!」というトンデモな発想から生まれたレベルソの「回転ケース」。その「盾」とも言えるソリッドバックの側にも文字盤を設置した「デュオ」に対して、私は言い知れぬ戸惑いを覚えました。
レベルソの初出当時とは比較にならぬほど硬度を増した「サファイアクリスタル風防」の出現で、衝撃への配慮が昔ほど必要ではなくなったとしてもです。レベルソの出自と「機能性」を軸にした価値からいって「デュオ」の存在は「邪道」ではないかと、私は考えていたのです。
でもまぁ…「スクアドラ」だって文字盤ではないにしろ、トランスペアレント仕様の片面を誇示するように「見せつける」作りです。…ぶっちゃけ一緒だよねぇ。ゴメンね~デュオォォォォ(;´Д`)
私としては狙い通りで、ほぼ満足な「スクアドラ」なのですが、欲を言えば…ブレスレットのモデルが欲しかった。しかし、それなりに探したものの、状態やら何やらで条件に合うものは見つかりませんでした。
とはいえ、レベルソと言えばレザーストラップです。レベルソとしては外道な「スクアドラ」と言えど、レザーストラップが「正装」なのは間違いのないところ。むしろそっち方向で楽しみたいと思います。
この「スクアドラ ホームタイム」は今から16年前の2006年リリースのモデルですので、現代の腕時計と比較すれば、機能的にはだいぶ見劣りします。それでも、まあまあ最近…2015年辺りまではカタログに残っていました。つまり、そこそこ長い期間、ブランド内でちゃんとした定座があったことになります。しかし残念なことに、後継機種が作られることはなかったのです。ルクルトの中では珍しく「目立つ」し「今っぽい」し、面白い時計だと思ったんですけどねぇ。やっぱり見たまんまの「異端児」扱いだったのでしょうか?
因みにジャガー・ルクルトのカタログ「2011~12年版」には、次の「スクアドラ」が掲載されています。『ワールド・クロノグラフ・ポロ・フィールド』『クロノグラフGMT』『ホームタイム』『レディ・デュエット・ジュワイアリー』『レディ・デュエット』『レディ・オートマティーク』『レディ』の以上7種類です。ね?一大ファミリーって感じでしょ?
当時、結局は購入を見送った「スクアドラ」でしたが、同時期に検討して手に入れたのは、同じジャガー・ルクルトの「レベルソ グランスポール」の方でした。「スクアドラ」に比べたら普通のレベルソに近い時計ですが、レベルソのくせに自動巻きで、ついでにブレスレットでしたから、やっぱりアレも「変態レベルソ」の一派だったのでしょう。
どちらにせよ、私が正統派ドレスウォッチのレベルソの中で「変態」の方を敢えて選んだ理由はハッキリしています。普通のレベルソ「クラシック」などが、私には「全然似合わなかった」からです。試着したユニセックスサイズのそれは、私の左腕で居心地悪そうな体裁を見せていました。恐らくは、当時の私の服装や雰囲気が、クラシカルな時計と「最悪の相性」だったのでしょう。客観的に見て、似合っていないのは明白でした。
それでも「ギミック大好き兄ちゃん」だった私からすれば、レベルソは「持っていないとおかしい時計」でした。そこで、クラシックよりはカジュアルなイメージの「グランスポール」と、ガッツリ系の「スクアドラ」に目標を絞りました。そして当時の私が選んだのは、ちょっと背伸びした感じのある「グランスポール」の方だったのです。
結局いろいろあって、それすら売り払って久しいのですが、そこからジャガー・ルクルトとは長らくご縁がありませんでした。っていうか、興味の対象として後回しになっていました。地味なブランドなので忘れちゃうんですよね(;´∀`)
ちなみにこの「スクアドラ ホームタイム」。どうやら「大ぶりな腕時計の流行り」に日和って出しました…ってなわけではないみたいです。
「真四角なレベルソ」というコンセプト自体、最初期のスケッチの中にすでに描かれていたそうで、ルクルトとしては満を持してアイデアを掘り起こした…と考えて良いのかもしれません。当時の私は「ルクルトが思い付きで作ったヘンコな時計」くらいに考えて、そのテキトーな感じに「洒脱さ」を感じて好きだったのですが、そんなに薄っぺらい出自のシロモノではなかったようです。ジャガーさん、ルクルトさん、ゴメンナサイ(;´Д`)
昨年末、銀座の某高級腕時計販売店で、ノンデイトの「ポラリス」を拝見した経緯については、弊ブログでも書かせていただきました。「ポラリス」自体は数年前から何度も腕に載せてきましたが、思えばその何れもが「他にもっと欲しい時計がある」タイミングでした。
ジャガー・ルクルトという地味なブランドの作る地味な時計たちは、その性格さえも地味なんでしょうか…「気が向いたときで良いのよ」…優柔不断で決めきれない私を、気の良い「ポラリス嬢」は最高の笑顔(?)で許してくれたのです(´;ω;`)
昨年末の絶好の機会でさえ「スマン!!ポラリス」と、ド派手な「ルミノール嬢」に行ってしまった私。その時すでに、私は心の片隅でジャガー・ルクルトに対する負債のようなものを背負ってしまっていたのです。「近々…ルクルトは買わんと…アレやなぁ」…と。
そんな私の手元に、通算2本目のジャガー・ルクルト「レベルソ スクアドラ ホームタイム」はやってきました。それはかつて、散々に迷ったあげく「縁がなかった」と諦めた逸品。ある意味、ジャガールクルトという地味なメゾンが「意外な先進性」を世界に見せつけた「当時の話題作」です。ディスコンになったとは言え、ルクルトの歴史に刻まれた足跡は、簡単に消えるものではありません。
その証拠に、十年余りを経ても私の記憶を憧憬とともに呼び起こし、数十万円の散財をさせるのですから…
このまま書くと、また5000字を余裕で超えちゃいそうなので、しばらく経ってから使用感なども含めた「続編」をまとめたいと思います。ではまた(*´∇`*)
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