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エプソンの腕時計ブランド「TRUME(トゥルーム)」に想うこと

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 腕時計ブランドとして「オリエント」「オリエントスター」を擁するエプソン「第三のブランド」「TRUME(トゥルーム)」から、現在の在庫を最後に「販売を終了」する旨のお知らせがありました。まぁ…見るからに苦戦していましたし、致し方なしといったところではあります。先進的な技術を盛り込んで、何気に面白い試みの時計を作っていたんですけどねぇ…残念でなりません(´;ω;`)

 2023年9月30日をもって、公式の製品ページも閉鎖されるそうですので、事実上の「ブランド消滅」と考えて良いでしょう。設立から維持、ステータスの確立など、ブランドを育てることの難しさを目の当たりにした気分です。

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悪くない時計だった「トゥルーム」

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最初から高い完成度を誇っていた「トゥルーム」(出典:https://www.epson.jp/)

 世の中、努力や苦労が必ずしも報われるわけではありませんが、エプソンさんの「トゥルーム」という時計ブランドの方向性自体には「未来」を感じましたし、独自の「センサー技術」や自動巻クオーツ「スイングジェネレーター」を武器にすれば、いずれはそれなりの支持を得られるのではないかと思っていました。それだけにホント…悲しいです。

 そんな私ですが、現状「トゥルームの時計」は持っていません。数年前、ほんの一瞬だけ気になって、ヨドバシさんでしたっけ??…に現物を見に行ったことならあります。販売員さんの「え!?トゥルームですか??」的な塩対応…思えばあの頃すでに、販売の最前線において「トゥルーム」というブランドは「推しても推さなくても」的な扱いだったのでしょう(;´∀`)

 肝心の時計、物はすごく良かったと記憶しています。21世紀を感じるデザインに各種センサーを盛り込んだメカメカしさ…仕上げもそこそこには上出来でしたし「一本あったら便利」な時計には違いありませんでした。ただ…同じような値段で比較したら…エプソンさんの範疇であれば「オリエントスター買うなぁ」と思ったことも事実です。

 同じ組織内の「オリエント」「オリエントスター」…2つの「ガチ勢」に対抗できないで、他社の競合ブランドと勝負できるはずもありません。デザインや機能から「トゥルーム」のベースモデルでもある、セイコーさんの「アストロン」辺りと競わせる感じかなぁ~と勝手に妄想していましたが…各メディアが期待を込めてそのように取り上げることは、ほとんどありませんでした。

 存在しないマーケットを切り拓くには力不足でしたし、既存のマーケットで短期間の内に定座を得るには、さすがに経験不足だったのかもしれませんね(;´Д`)

「TRUME(トゥルーム)」が人気を得られなかった「5つの理由」

 何だか鞭打つようで誠に心苦しいのですが、あくまで個人的な考察と断った上で「トゥルーム」が消滅するに至る理由…つまり「人気がなかった理由」を簡潔に「5つ」明示しておきたいと思います。

 この貴重な経験はエプソンさんのみならず、我々腕時計を愛好する「一般消費者」こそが覚えておくべきだと思うのです。こういった失敗からフィードバックを得て蘇ったブランドなんて古今東西幾らでもありますし、この失敗を起点に新たなストーリーが始まると考えるならば…先々、腕時計好きが大好物の「エモい展開」だって、十分に期待できるじゃないですか!?

 ってなわけで、心を鬼にして書かせていただきます。

デザインで世界観を示せなかった

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現代的な意匠を古典的なバランスで配置したデザイン(出典:https://www.epson.jp/)

 精度争いがあったとしても、せいぜいが五十歩百歩なクオーツ時計の世界。購入動機の大なるものは何と言っても「優れたデザイン」ですよね。今更ながら「トゥルーム」のデザインを見て私は思うのです。「このデザインだと『好きか嫌いか』しかない」…要するに「受け取る側に幅がない」んです。

 そのくせ、デザインの中に「コレ!!」というコードも見付けられません。コレクションを通じて伝わる「意図も薄い」ですし、デザインという「勝負所」で計画性を見せられなかったことが、如実に消費者に伝わったのでしょう。言い換えるなら、ブランドが消費者に与えるべきギフト…「世界観がない」のです。

 「世界観」があるブランドからは「先々の期待」を受け取ることができます。それは「針の形」「ダイヤルの装飾」といった細部を揃えることでは生まれません。ブランドが標榜する強力な理念があってこそ、消費者はそこに心酔し安心して付き従うのです。未来に繋がっていく「ブランド世界の広がり」を形にできなかった部分は「トゥルームブランド消滅」の大きな原因だと思います。

消費者に拘りが伝わらなかった

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似たようなクロノグラフの中で健闘した3針モデル(出典:https://www.epson.jp/)

 「スイングジェネレータ」という機構にしても、要するにセイコーさんの「キネティック」ですからね。名称変更しただけと揶揄されても仕方がないところです。セイコーさん自身がほとんど使わなくなった「枯れた技術」に再び光を当てたこと自体は評価できます。できますが、そこは「キネティック改」とでもした方が歴史の針を動かした感じがあって良かったはずです。そうすれば既存の腕時計好きの耳目を集めることもできたでしょうし…

 こういう小さいところから微妙に外してるんですよねぇ。何の拘りがそうさせるのか、全く解りませんが。

 ムーブメント関連のネーミングに対する「妙な拘り」はソーラーにも及びます。曰く「ライトチャージ」

 何でしょうねぇ…「いやん!!こっち見ないで!!」的な恥ずかしさ。そこは拘るところじゃないんですよ。素直にソーラーで良いじゃないですか??誰にでも伝わりますし。

 確かに、ロレックスさん辺りは素材にブランド由来の「独自名称」を与えています。ですがあれは「ロレックスだから」ですよね??申し訳ないですが「トゥルーム」じゃあ弱いのです。

 一般用語を覆すほどの独自性があるわけではないですし、その部分に関しては当初から「これが中二病ってやつか??」と感じていました(;´Д`)

 「トゥルーム」さんを擁護するわけではありませんが、ブランド設立の初手から「細かいブランディング」に大きな読み違えがあったとしか言えません。無理して自分を大きく見せようとする姿勢は消費者に即刻伝わっちゃいますからねぇ…すぐ近くに「自己を過小評価し過ぎ」のブランド「オリエント」さんがいるわけですから…そこは見習って欲しかったなぁ。

似たような時計が多すぎた

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イケメン時計が多過ぎたのかもしれない(出典:https://www.epson.jp/)

 そもそも、小売りから情報が得づらいブランドであることも要因ですが、公式ページも解りにくかったと思います。取り敢えず言いたいことを全部記してみた…そんな印象しか持てず「で結局、トゥルームって何なん??」という疑問を解消できていませんでした。

 ほとんど見た目に変化の無いデザインの時計が、シリーズ名だけで区分けされている感じでしたからねぇ。機能で売るならば、その違いで解りやすく探せる仕組みも欲しかったところ。
 
 ついでに、素材の違いや機能の違いを公式ページの浅い階層から選択できるようにすべきでした。個別の商品ページに到達してようやくどんな時計かが解る…時計のデザイン的には「一辺倒」なのですから、せめて公式ページでは、解りやすいインターフェースで消費者への周知を進めるべきだったと思います。売り方次第で、もっともっと売れましたよ(;´∀`)

値段に説得力を与えられなかった

 何だろう…定価の設定が高過ぎたように思います。いや、私も実物を見ましたから「アストロンの上位モデル」にも比肩するゴージャスな作りであることは認めます。

 ですが、そこは「後発」です。まずは周知を進めるべく「戦略価格」を探って欲しかった。最後は小売りで安く叩き売られるのだとしても、定価で購入する方がいる以上、定価の値付けは無視できません。価格で競合商品と比較したときに「こんなに払うなら『トゥルームじゃないなぁ…」と感じた人もいたはずですから。

デカすぎた

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チタン故、見た目ほど重くはないが…(出典:https://www.epson.jp/)

 これかな…ダメだった最大の要因は。

 「新作」という表現が悲しみを誘いますが…ライトチャージのSコレクション「TR-MB7012」の場合、そのサイズは「縦57.2ミリ×横46.3ミリ×厚さ15.5ミリ」…パネライかな??

 もうね…余程でない限り、デカイ時計は淘汰される運命なんですよ。それこそパネライのように「デカさこそアイデンティティー!!」みたいなブランドでもない限り、それは解りきったことなんです。チタンで軽いから??いやいや、これは純粋に見た目の問題なんですよ(;´Д`)

 「クレオパトラの鼻がもう少し低かったら…」じゃないですけど、もう少し小ぶりなサイズ感で勝負してくれてたなら「トゥルーム」の未来も変わっていたかもしれません。

最後に

 ってなわけで、心苦しい中トゥルームがダメだったポイント5つ」を上げさせていただきました。他人事ながら、書いてて段々と悔しくなって来ましてね…もっとやれたはず、もっと売れたはずとしか思えないんですよ。プロダクトとしては中々どうして、野心的で面白い時計でしたからね。

 エプソンさんが時計部門で採算を目指す上で「3本目の柱」が欲しかったことは想像に難くありません。ですが、今となってはどこまで本気で育てる気があったのか疑問です。あと5年我慢できたら、何かが変わっていたかもしれないのに…(;´Д`)

 売れなければ予算も付きませんし、開発にお金が使えないなら良い製品なんて望むべくもありません。そういったことが「負のスパイラル」を生じさせ、可能性の塊だった「トゥルーム」の光を奪ったのだとしたら…

 「トゥルーム」の復活なんてこの先もあり得ないかも知れませんが、次に新たな柱を模索するなら、低資本でも「グッとくる時計」を生み出すことに長けた、数多の「マイクロブランド」を参考にすべきです。迷いが許されない中で勝負すべく強いられた彼らに匹敵する「覚悟」があれば、次のエプソン発のブランドは、もっと面白い存在になるはずですから。

 そうそう!!これが最後の機会かもしれませんし、手に入れたい方は早いほうが良いかもしれません。私自身も「スイングジェネレーターの3針どうするべ??」みたいな状態なので(;´∀`)

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ご意見・ご感想

コメント一覧 (4件)

  • トゥルームの存在はこの記事で初めて知りました。流石に知名度が難ありなのかもしれません。オリエントの名前を冠して展開すればまた違ったのかもとも感じます。オリエント〜のように。HPで見ただけですが物は面白そうなんですよね。あと、価格は10万前後のラインナップを主力展開すれば普及したかもしれませんね。確かに、やりようはあったのかなと思えます。

    • 黒海月さま。
      トゥルームの記事への反響が意外に大きくて驚いております。
      グーグルさんが未だインデックスしてくれていないにも関わらずです。

      結構攻めたデザインだったと思うんですが、消費者に必然性を植え付けるまでには至らなかった気がします。
      良いな~と思った人も、優先順位を決め兼ねたんじゃないでしょうか??

      ブランドの立ち上げに要したエネルギーを思えば、本当に残念でした。
      エプソンさんにとって、次に繋がる失敗であることを祈るばかりです(;´Д`)

  • 国産リーマン腕時計研究所と申します。
    記事興味は深く拝見しました。
    エプソンはセイコーとオリエントのからみもあるので制約が多すぎた、その中でオリジナルティを発揮しないといけないという中でのモデルだということで、奮闘したと思います。
    しかし一般的なユーザーからしてみれは、中途半端な印象しかなく、消滅もヤモなしというところでしょうね。
    You Tubeやってますのでよくったらみてください「リーマン国産腕時計研究所」です。
    宣伝ではないのでそう読まれたらごめんなさい。

    • 丁寧なご挨拶恐縮です。
      ブランド立ち上げの苦労を思えば、とてももったいないトゥルームでした。
      気になっていた人も多かったと思うんですけどねぇ… (;´Д`)

      コメントありがとうございました。
      Youtube拝見いたします(*´∀`*)

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