以前所有していたタグ・ホイヤー「モナコ」に関して覚えているのは、購入した際の「動機」だけかもしれません。曰く「スティーブ・マックイーン」氏が「栄光のル・マン」で着けたモデルが「モナコ」だったから。
「ブリット」や「ゲッタウェイ」の男臭い中にも繊細さを感じる演技に魅了されて以来のスティーブ・マックイーンファンだった私。「タワーリング・インフェルノ」での消防隊の隊長役も格好良かったなぁ…って、私が随分前に手放してしまったタグ・ホイヤーの「モナコ」に関する記憶は、本当にこれくらいしかないのです。自分が買った腕時計なのにこれといった印象がありません。
購入した時期もぶっちゃけぼんやりしています。確か男性ファッション誌の特集で「モナコ」のリバイバルモデルが発売されると知って、深く考えずに速攻で手に入れたのでした。しかし、買ってはみたもののどうしても馴染めず、ゆえにさしたる愛情も沸かず…「モナコ」の真価を味わう前に手放すことになってしまいました。インスタなんて知りもしない時代の話です。
もちろん写真の一枚もありませんし、買ったモデルのリファレンスナンバーすら怪しい(新品か新古品かもおぼろげ)恐らく時期的には「キャリバー12」搭載機でしょうが、怖いくらい印象…というか記憶がありません。
そのさらに数年前、私は別の「モナコ」も買っています。Chrono24さんで検索したら多分これっていうのを見つけました。そうそう、こんなのだったかな。えっと…黒い文字盤の…スリーカウンターだったけ?
これも1年足らずで手放したと思います。この時代のタグ・ホイヤーは中古での買取金額が残念なくらい低くて、その頃の私の中に「タグ・ホイヤー≠一流」という構図を植え付けるには十分でした。現在までタグ・ホイヤーから足が遠のいている理由の一つかもしれません。
20歳代からちまちまと腕時計を買い続けてきた私ですが、腕時計のことを「もっと知りたい!」と勉強し始めたのは、ここ5、6年のことだと思います。写真が残っているのもこの辺り。それ以前の私の腕時計との接し方は、今なら許せないくらい「独善的」なものでした。なまじある程度機械類に強かったため、ぞんざいに扱う「舐めた」部分があったかもしれません。
二度も「モナコ」を入手した理由を今更ながら考えると、自分の手持ちの中に何かしらの「異形」を挟み込みたかったのだと思います。いわゆる「捻り時計」として頭の中に浮かぶ高級腕時計なら「モナコ」は鉄板だと思いますし、モデルが着けている写真を見ると格好良いわけです。特にスティーブ・マックイーン氏の着けこなしは余りにも完璧。自分もそうなれると思っちゃうわけです。「モナコ」を身に着ければ…
ところがそうはならない。なれるわけがない。同じ四角を腕に乗せても、もう全然印象が違うのです。そうそう!こうやって書きながら思い出してきました。「思ってたのと違う!」という心の叫びを。そして拭い去れぬ敗北感を。
私の勝手な解釈ですし根拠もありませんが、この「モナコ」という腕時計、実はもの凄~く人を選ぶような気がします。タグ・ホイヤーの中で「カレラ」と「モナコ」は共にハイエンドを構成するラインですが、「カレラ」が誰にでも合わせてくれる汎用性の高い優等生だとすれば、「モナコ」は孤高の一匹狼「アウトサイダー」といった風情で、それが使う側に扱いの「難しさ」を感じさせるのでしょう。
実際、ユーチューブなどで芸能人の方が「モナコ」を着けてらっしゃるのを見かけますが、だいたい微妙です。好きなのは伝わってきますが「好きと似合うは別」。身近にスタイリストさんなどがいて、ファッションにも卓越しているであろう芸能人にしても「モナコ」には苦戦しているのです。
2度目の「モナコ」でもしっくりこなかった私。四角い時計の難しさを誰よりも知る私(?)が、ベル&ロスの「BR03ダイバー」に出会ったのは2017年でした。ベル&ロスは独特の「ヌケ感」で私にも無理なく四角い腕時計の楽しみ方を教えてくれました。色んなシーンで使ってみて、「四角い時計はこうやって使えば良いんだ!」ということが解りましたし、「モナコ」から生じた「四角い時計トラウマ」も払拭されたと思います。
私は「モナコ」に代表される四角い腕時計に対して深い憧憬を持ち続けています。難しいからこそ挑戦したい…それは数年ごとに抗えない「渇望」を呼び起こし「モナコ欲しい欲しい病」を発症させるのです。次こそは「使いこなしてみせるぜ!」と。
で!一念発起!見に行くことにしました。いつもより少し遠くの百貨店へ。といっても歩いて行けちゃうロケーションで、タグ・ホイヤーの独立したブースがあるデパートを選びました。
JR新宿駅の東側になると途端に不案内に陥る私。やたらと遠回りして目標のデパートに辿り着きました。ぜぇぜぇ…帰りに解ったことですが、私が入ったのは裏口だったようです。どうりで「地味な入り口だなぁ」と思うわけだ(;´Д`)
行き慣れないデパートはエレベーターも鬼門です。いわゆる階層分けがされたエレベーターに間違って乗ってしまい、降りれたのは「子供用品売場」。ちっこいのがワラワラ&キャッキャしていてビビりました(;´∀`)
ようやく目当ての腕時計売り場へ到着。事前に調べていたものの、売り場は思ったほどの規模ではありませんでした。これならいつもの「O百貨店」の方が全然デカイ。
タグ・ホイヤーのブースもちんまりしたものでしたが、品揃えは良かったです。ちなみに私が見たかったのはキャリバー「ホイヤー02」搭載の「モナコ」一択。もはや新製品ってわけではありませんが…うんうんあるある…って、肝心のブルー文字盤のブレスモデルがないがな!(;´Д`)
「すみません…先日、売れてしまいました…」とスタッフの男性。「モナコといえばブルー文字盤ですよね?」と心配されるも、そこは「大人の余裕を演出」。
「じゃあ、そこの黒文字盤の02モデルを…」とお願いして、試着することにしました。確かに「モナコといえばブルー」ですが、無いものは仕方ありません。
拝見させて頂きます!
「おお!モナコってこんなにラグジュアリー感あったっけ?」…が私の第一印象でした。養生にくるまれているので「全力」は出せていないはずですが、それでも紛うことなき高級時計の「色気」が感じられます。重さはそこそこありそうですが、見た目とあっているというか、手にした時の「あれ?」って感じはありません。やばいぞ…これは。
リューズ、プッシャーの存在感!
美しく一直線に揃ったリューズとプッシャー。「プッシャーは丸いほうが好き」な私ですが、面取りも丁寧でスクエアなプッシャーにはやられました。ケースの構造美を壊さない配慮でしょう。押しやすそうでもあります。特徴的なせり出す風防もグッドデザインです。剥きたい…養生剥きたすぎる。
魅惑のセクシー・キャリバー「02」
トランスペアレントから「ホイヤー02」を拝みます。80時間パワーリザーブがあって、みんな大好きコラムホイール。セイコーの「6S系」ベースの「1887」の系譜「ホイヤー01」とは異なり信頼性に優れた「垂直クラッチ」を使っているそうです。なぜだ?ホイヤーといえば「スイングピニオン」ではないのか?
とはいえ、なかなか美しいムーブメントでした。これなら大きな窓を作って見せたがるのも解ります。セクシーな設計ですね。
「ホイヤー02」が面白いのは、トゥールビヨン搭載品が先行して製品化されているという事実。これは「ホイヤー02」がそれだけの余裕をもった設計であることの証左でしょう。とりあえず最初に「ガツン」と食らわしたかっただけの可能性もありますが、面白い逸話です。
左腕に実装!
来た!いきなりしっくり来ました!
黒文字盤の逆パンダ仕様、メッチャ馴染みます。例えば「これ一本で生活する」となれば、間違いなく青文字盤よりこの黒文字盤が適任でしょう。それくらい良い意味で「普通」に感じました。「モナコ」に普通を感じる日が来るとは…
充実のダイアル!
もう少しアップで。養生のせいで妙に光ってしまってすみません。
いやぁ…よく出来ています。作りのレベルはかなりのもの。私が以前買った「モナコ」はもっとこう…オモチャっぽさがあったのですが、現行品は立派なラグジュアリーウォッチです。
僅かにすり鉢状に陥没させたインダイアルが作り出す奥行き感も馬鹿になりませんし、インデックスや針のレベルも高いです。そして「ホイヤー02」搭載で追加されたスモールセコンドの効果。「邪魔だなぁ~」と思った人も多いでしょうが、私はこれ「格好良い」と思いました。デザイン的に正しいリファインだと思いますし、何よりスモセコを目立たない位置にちんまり置いたことで、目立つ2つのインダイアルの針が垂直の定位置に留まり続けるわけです。この静謐な美しさを生み出し得たことで「02モナコ」はよりラグジュアリー感を増したといえるでしょう。
過去イチの「モナコ」ではないだろうか!
手のひらに乗せると凝縮された重量をひしひしと感じます。ここは意外と重要なところでして、良い時計は重量バランスにも優れ「ズッシリ」とした重みが真下に抜けていくものなのです。安物はこれが四方八方に散る感じ。
「02モナコ」に関しては「ほぼ完璧な重量バランス」だと思います。どこに重量の中心点があるかを意識した設計だと思いますし、歴史を重ねてある意味「古臭い」デザインであっても、早い段階で完成していた「モナコ」のコンセプトは素晴らしいです。
そして「ブレスレット」。以前のモデルに装備されていた細かい7連のブレスも格好良かったですが、この「H型」も素晴らしいです。やっぱり「ホイヤーのH」なんでしょうかね?モナコ本体のクラシカルなデザインを邪魔していないところが良いです。「モナコ」でありながら「ビジネスも案外いけるんじゃない?」と思わせる要因の多くは、このブレスから来るものでしょう。
またこのブレスは仕上げも美しかったです。肌への当たりも柔らかく滑りも良さそうなので、少し緩めに身に着けるとお洒落にキマるかもしれません(*´∀`*)
全く別枠の時計に見える!
「キャリバー11」と並べてもらいました。こうして並べると、同じ「モナコ」でありながら方向性にかなりの違いがあると理解できます。まず、左リューズの持つ異質性が際立つ「キャリバー11(左)」は、オリジナルの雰囲気を忠実に再現したモデルなだけあって、当時の時代感が全面に出ています。良く言えばレトロ感満点。悪くいえば古臭さ満点です(;´∀`)
好きな人は間違いなくこの「古臭さ」が好きなのでしょう。それは私にも解ります。レトロ系のグラフィックTシャツなんかにありそうな「のっぺり」した意匠です。ホーロー看板みたいな味もありますね。
隣の現行機「ホイヤー02」は、元来古臭い「モナコ」のデザインを現代風にリプロダクトしつつ、今の私たちに使いやすい実戦的な機能を多く搭載しています。パワーリザーブの長さはその最たるものでしょうが、より立体的に作られたインデックス、僅かにへこませたインダイアルは「視覚のレイヤー構造」を作り出し、時刻を見易くするだけでなく、細部に格段の「高級感」を生み出しました。どこかギクシャクしてイモっぽさが拭えなかった「モナコ」のデザインは、「ホイヤー02」の現行機という形で一つの完成をみたのです。
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ただ、「洗練されすぎて好きになれない」という方の存在も無視できません。タグ・ホイヤーもその辺を重々承知しているからこそ、左リューズの「キャリバー11」モデルを現行ラインアップに残しているのです。
正直、日々のビジネスの場で「キャリバー11」モデルを使い続けるには無理がありそうです。重要な会合で着けて「セーフ」かと聞かれたら、恐らく「アウト」でしょう。とはいえ、沢山の腕時計を使い回している方が、目線を変える一本として持っている分には非常に魅力的な時計です。
「ホイヤー02」モデルは旧「キャリバー12」モデルの心臓部を強化してバージョンアップしたモデルですが、それだけでにとどまらず、細部に多くの改良点を感じ取れました。同じシリーズの酷似したデザインでありながら、ディテールの違いが生み出したものは大きく、「キャリバー11」モデルと「ホイヤー02」モデルはまるで「別のカテゴリー」に分けられた時計のようです。
さて、こうして実物を着けてみて解ったことがあります。「モナコ」という腕時計、実は「年配になってからのほうが似合うんじゃないか」ということ。
腕時計世界の中で、「モナコ」はいわば「硬派のヤンキー」みたいな存在かもしれません。装着者が若いうちはその若さが災いして、狭い手首の上で「ヤンキー同士のツッパリ合い」が起きているようなものです。「やんのか!シャバ僧!」「おぉ!やんのかコラ!」みたいな無駄なパーソナリティーの衝突が、かつての私の左腕にも起きていたのです。それゆえに「落ち着かなさ」や「拒否感」を感じていたのでしょう。
歳をとることも悪いことばかりではないと思います。若さを失うにつれてその分、人間としての「寛容」が増していくのですから。今の私なら若い奴が荒ぶって絡んできても「そないな喧嘩腰もなんや。とりあえず一杯呑もか?」と言えるでしょうし、相手によっては「平和的な無視」を決め込むことも難しくありません。
実際、今回「モナコ」の「ホイヤー02」モデルを左腕に載せてみて、自分自身が「腕時計の受容体」としてレベルアップしていると確認することができました。アホみたいに多種多様な腕時計を使った経験は無駄ではなかった!多分!(汗)
多少めんどくさいヤツが相手だとしても、辛抱強く話を聴いてやれば絆が生まれることもあります。腕時計界随一のアウトサイダー「モナコ」が相手でも、寛容さを増した今の自分なら「解ってやれる」と思っています(*´∀`*)
さぁ来い!このオッサンの左腕に!3度目の正直ってやつだ!(資金さえあればなぁ…)
※続編(?)はこちらです。
ご意見・ご感想
コメント一覧 (2件)
journal_voyageさま。
コメントありがとうございます♫
唯一無二の存在感と格好良さ。
大人の遊び心を体現した時計だと思います。
モナコのように時代が変わっても見た目が大きく変わらない時計は、ファン心理をくすぐりますね(*´∀`*)
記事いつも楽しく拝見しています。モナコ、いつかは手に入れてみたい時計の一つです。強烈な魅力がありますよね・・・。