修理屋さんのブログみたいな見出しですね(笑)
久しぶりに書く「腕時計喫茶」です。感覚的には半年くらい離れていたような気でいましたが、実際のところ4ヶ月くらいですかね(;´Д`)
執筆がストップしていた理由については、また次の機会にしつこいくらい愚痴らせて頂くとして…
つい先日のことですが「ブレスが長すぎるアンティーク時計をオレの細腕で使えるようにしたい」と度々仰っていた方から「OMEGA SEAMASTER(シーマスター)」を預かりました。お互いに多忙で中々進まなかった案件でしたが…お待たせしました!ようやくです。
相手は私の「微妙な腕時計好き」という些かアレな性分を充分に理解して下さっている方です。私という人間が他のことならいざ知らず、腕時計だけは愛情をこめて大事に扱うこともとうにご存知。でもなけりゃ、他人に大切なオメガは預けないですよね?
預かる前に一度、持ち主さんの左腕に装着してもらい現状の「緩さ」を確認しました。この時、クラスプ(バックル)の浮きっぷりから外すべきコマの数を何となくイメージ。本来ならメジャーを使って手首の周径を測るべきですが、生憎メジャーの持ち合わせ(?)がなかったため「勘」に頼ることに。これまで個人としては多種多様、それなりの本数のブレスを詰めてきた私。今回は、そんな自分の経験を全面的に信じることにしました。
魅惑的なライスブレスが美しいシーマスですが、丸っこいコマは何となくボリューム感が解りづらい。1コマで何ミリといった計算ができなかったので、ザクッと全体で2センチ弱短くすることを目標にしました。
かばんに入れて安全に持ち帰るために、ティッシュペーパーで簡易の枕を作ってブレスを固定。その上を日頃から会社のデスクに潜ませているセームの大きな一枚革で包むことに。さらにその上から新聞紙でグルグル巻きにしたら、まるで季節外れの焼き芋みたいになりました。人さまの腕時計を預かるんですから、これくらい厳重にしなくちゃ安心できません(´・ω・`)
預かったシーマスの外装ですが、中古ショップがランク付けするとしたら恐らく「可」辺りの状態。まあまあ気になる細かい傷に多数被われている現状です。そしてそんな状態を見て放っておけるほど、私は物わかりの良い大人じゃないのです。
「ついでに仕上げもしましょうか?」
「え?マジで!?是非!!」みたいな反応を頂いたので「簡易仕上げ込みのブレス調整」を受注(?)しました。概算でちょっと長めの1週間の工期。7月に入って予定通り忙しさに拍車がかかっている状態なので、それくらいは余裕をみておこう…ってな感じでした。
ところが家に帰ってコーヒーを飲みながらシーマスの小傷を見ていると、何かこう…燃えてきたのです。メラメラとムラムラと。
まず預かったシーマスターについてですが、恐らくは500番台キャリバーの最終形、名機「Cal.565搭載」ではないかと思います。同型のシーマスをググってググって、様々な資料からそう結論づけました。製造年代は1960年代半ばから末にかけてでしょう。
アンティークのシーマスなら私は1950年代に作られた楔形インデックスでベゼルが太めのモデルが好きです。しかし預かった60年代のシーマスも中々どうして、むしろ今の時代に使いやすそうなデザインではないですか。
そうして私は思ったのです「少しでもキレイに仕上げて気持ちよく使ってもらわなければ…」と( ー`дー´)
その日帰宅したのは23時過ぎでしたが、やおら折り畳み机を広げた私。鼻歌交じりにシーマスのライスブレスを分解し始めました。しかしこれが、見た目以上に曲者でして。
まず、ブレスの側面をスマホで接写。拡大写真で得た情報からピンの種類は「割ピン」と推測しました。ピンの先端に何となく亀裂があるように見えたからです。
割ピンなら何のこともあらんです。ハンマーでコチコチやって、反対側に押し出せばいいのですから。ところがコチコチ、あるいはトントンやってもピンが全然沈んでくれない。っていうか、ハンマーを経由して何かバネっぽいテンションを感じる…ってこれアンタ!「バネ棒」やないかい!
バネ棒であることが解れば「楽勝!」…のはずが「行きは良い良い、帰りは怖い」ってな感じで、今度は繋げる際に一苦労。ひとコマが7つのパーツの独立懸架になっていて、バネ棒がなかなかスルリと入ってくれない。でもこれこそが、このライスブレスの有機的で滑らかな着け心地の秘密なワケです。安物の「なんちゃって7連」とは一線を画す緻密で贅沢な作りです。
そんなこんなで2コマ外して無事にブレスの調整を終了。ベルジョンのブレスゲージで調べたら約15.5センチでした。ほぼ目標の長さになりました(*´∇`*)
さて、ここから「仕上げ作業」に入るワケですが…実は「ビフォー状態」の写真を撮り忘れました(汗)あまりにも鼻息荒く速攻で作業に突入したために、作業終了時点まで写真を取り損ねたことに気が付かなかったのです。あちゃー(;´Д`)
「ビフォー・アフター」の写真がないと、どれくらい状態が改善されたのか比較しようがないと思いますが…作業手順とともにアフターの写真だけ御覧ください。
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まず最初に手を付けたのは「クラスプ(バックル)」でした。サテンのヘアラインはほぼ消滅。長年のアタリで角も丸くなっています。ここは元々ポリッシュの部分だけをワックスシートで磨きました。サイド一面が丸々ポリッシュでしたので、マスキングなしでも気軽に磨くことができました。曇りが取れて立体感が復活!
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「ブレスレット」の側面、ポリッシュです。ここもワックスシートで曇りを取ることに留めました。僅かに腐食が浮き出ていた箇所だけは、コンパウンドと綿棒で地道に対応。
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「裏蓋」にはきれいな同心円のヘアラインが残っていました。ここは触らずポリッシュ部分だけにワックス。使ったワックスのシートがみるみる黒く変色していきます。そして裏蓋も薄皮を剥いだようにキレイに。
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調整に苦労した「ライスブレス」ですが、まずホコリを表裏両面から取り除いて、中央の「米つぶ」のポリッシュに対してのみワックス処理しました。ワックスシートを1センチ角くらいまで小さくカットして、サテン部分に触らないよう作業を進めました。作業前に比べると、明らかに米つぶ部分の立体感が増したと思います。いやぁ~ライスブレス、雰囲気めちゃいいですね(*´∀`*)
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さぁ~て、真打ち!「ケース」です。
許せないくらい強烈な打痕は見当たりませんでしたが、所々に目視できる腐食と深めの線傷がありました。まずは「ラグ」ですが、一度ワックスシートでちまちま磨いたあとで、状況に応じてコンパウンドを使用しました。腐食はほぼ目立たなくなったと思います。ポリッシュ部分が陰影を拾うようになって、ラグの造形が際立ちました。
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「ベゼル」です。腕時計の印象、特に「キレイ・キタナイ」に関してベゼルは最重要パーツだと思いますが、目立つパーツであるがゆえに、他のパーツの状態とバランスが取れていないといわゆる「悪目立ち」してしまいます。ポリッシュなので頑張ればかなりツルピカの状態まで追い込むことは可能ですが、下手するとアンティーク時計本来の「味」が損なわれます。ここもワックスシートで曇りを取る作業を中心にしつつ、人間に例えるなら「血色を良くする」程度の作業に留めました。
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光線の角度によっては線傷が無数に確認できますが、ベゼルの光沢自体は相当に回復したと思います。それこそこれくらい接近してマジマジと見ない限りほとんど気にならないレベル。老眼世代ならなおさらです(;´∀`)
ちなみにベゼルの11時の位置には結構目立つ腐食が浮いていましたが、そこだけはコンパウンドを使って丁寧に錆落としをしました。「サビが目立たなくなった!」って喜ばれちゃった(*´∀`*)
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「ダイアルとハンド」にはそれなりのダメージが見られますが、インデックスはキレイなものでした。製造年代を思えばこのくらいのダメージは全然許せる範囲です。クロスラインもクラシックな雰囲気があって美しいですね。
ここまで見ていただいてお気づきの方もいらっしゃるかもしれませんが、風防(プラ)も傷だらけでしたので磨いています。ベゼルをマスキングで隠した上で「サンエーパール」をぬりぬり。柔らかいキッチンペーパーで線傷が見えなくなるまで磨きました。視認性の回復にはこれしかないですからね!
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「ケース」を側面から。ここはサテン仕上げなので手を入れず、リューズの先端部だけ磨きました。今更ですがこうしてみると弓カンかなり浮いてますね。爪を調整すればよかったかなぁ。
作業内容は以上です。
作業開始から4時間、気が付けば夜食も食べず(?)午前3時まで脇目も振らずやってしまいました。それにしても楽しかった…手をかければかけるほど、曇った鈍い光沢がどんどん鮮やかな輝きに変わっていく。オメガという歴史も人気もあるブランドのアンティークに「もう一花咲かせる」手助けができたのかなぁ~と思うと、次の日の睡眠不足もへっちゃらでした(*´∀`*)
翌日、作業を終えたシーマスターは無事にオーナーさんの手元にお返しできました。お披露目の瞬間の「おー!ピカピカしてる!」との言葉に、内心でガッツポーズな私。ブレスもジャストサイズでしたし、とりあえずは満足して下さったと思います(お礼として美味しい菓子折りも頂戴しましたしね!)これにて一件落着(・∀・)
ところで、腕時計の外装を研磨したり磨いたりする「仕上げ」には、否定的な意見が多いことをご存知でしょうか?
特にアンティークを専門に取り扱う業者さんには、否定的な意見をお持ちの方が多くいらっしゃいます。これは「アンティーク本来の価値」に纏わる考え方で、ぶっちゃけると「アンティークなんだから古くて傷だらけで当然」そして「それが愛せないヤツはアンティークに手を出すな」ということだと思います。まさしくその通りです。
その考えで言えば、手を加えられるパーツのみに仕上げを施すなどして、全体的にチグハグな見た目になってしまうような「愚考」は厳に避けるべきなのでしょう。
とはいえ、腕時計は「使ってナンボ」の代物ですから、身に着けて恥ずかしくない状態であるか否かも大切です。ですのでエチケットレベルで見た目を良くすること自体は許されてしかるべきだと思います。私が自分で行う「仕上げ」なんてものは「簡易」の中でもさらに簡易なもので、使用年数に見合った傷はそのままに、くすみや汚れを取り除くことを目的にしています。っていうか、その程度の技術しかありません(;´∀`)
ダイアルの状態がもっとキレイだったら、もしかすると手持ちのドレメルでバフかけて…みたいな追い込みをかけていたかもしれません。しかしながら全体的な状態のバランスを考えれば、アンティークの専門家に怒られない程度の仕上げに留めて正解だったと思っています。
それにしても、手先を無心に動かす作業ってストレス解消になりますね!一時ですが仕事の重圧を忘れることができました(*´∀`*)
ご意見・ご感想
コメント一覧 (2件)
長らくご返信せず放ったらかしでスミマセンでした。
アンティークと呼べるのは1950年代まで…みたいな記述を専門書でしばしば見かけますが、技術が大きく発達した60年代と50年代では取り扱いの難易度がかなり違うと聞きます。
アンティークの雰囲気十分で、未だ現役で使える60年代物なら、気軽に楽しめそうですよ(*´∀`*)
久々の投稿ありがとうございます!
アンティーク、憧れますが自分に管理できるのか…?と不安でまだ手を出せていません…。