昨日、全国の気象事情で普段より数段バタバタと社内を走り回っていた時、突然、肩書でいえば私より一つ上にあたる人に呼び止められました。
「生年月日教えて」(´・ω・`)
「何ですか、それ?」ってなもんです。どうやらトップから今後の世代交代を見据えていい歳をした連中の配置を見直すらしく、丁度「いい歳」の私にも声がかかったわけで。
ザックリとした計画を聞かせていただいた後、「っていっても、私が東京にいるのってせいぜい3年ちょいですよ?」と念を押させてもらいました。最近、ずっと東京で働いてきた人間みたいな扱いを受け始めていると感じていたので…念の為です。
「次の世代の育ち次第だなぁ~」(´・ω・`)
そりゃまあそうなんですが、一応「転勤の赴任期間は最大4年」というルールがありまして…そもそも、それ以上に長く「東阪二重生活」を送らされたら、身も財布も保たないわけです。
そんなトホホな計画を聞いてしまっては、「早く大阪へ帰りたい(手段は問わない)」と思い詰めるのは無理からぬことでしょ?(;´Д`)
大阪が楽しかった要因はいろいろありますが、やはり「顔見知りの多さ」に尽きると思います。
家族、友人・知人、同じ趣味、活動を共有する仲間…そういったコミュニティーに揉まれて、私という人間の輪郭は作られていたのです。それらから切り離された今の私は、実に面白みの薄い人間になってしまったような気さえします(´;ω;`)
大阪のミナミの一角には私の行き付けのお店があって、特にカレーとコーヒーがウマい小さなお店「S店」が私の気に入りでした。冗談好きの年配のマスターと、これまた笑わせてくれる常連さんとのコンビネーション、いつしか私も常連軍団の一人と見られるようになって、メニューにないオーダーも遠慮なく頼めたりしました。
やはり「自分の街」には、
こういう「特別な居場所」が必要なのです。
東京にも同じような「拠点」を作りたいと思ってアチコチのカフェに顔を出したりしましたが、まず私のほうが「ここは違うな…」と思ってしまって、次第に足が遠のいてしまいました。元が人見知りの激しい人間ですので、お店に対しても「店見知り」みたいなことが起きてしまうのです。
ただ一軒だけ、店の雰囲気が「どストライク」な喫茶店があります。そこは西新宿の片隅で40年以上営業を続ける、老舗中の老舗でした。
アレクサが選んでくれた「ロータリー」を着けて(M店さん店内)
その喫茶店「M店」ですが、何といってもコーヒーがウマい。何杯でも飲めそうな昔風の味わい(酸味系)が特徴です。大阪の「S店」のコーヒーも負けていませんでしたが、こういう「気合の入った店」のコーヒーを飲んでしまうと、ス○バやエク○ルシ○ールのコーヒーが、何やら別カテゴリーの飲み物に思えます。すぐに提供されるので、仕事の前に買っていくにはありがたいですけどね。スタ○。
「M店」さんには転勤からこの方、必ず土曜日のお昼にお邪魔しています。高齢のご夫婦二人で切り盛りする落ち着いた雰囲気のお店で、インテリアの枯れた感じがコーヒーの味をグッと引き立てます。店構えが昔風の重苦しい感じなので、若い人は少々入りにくいでしょうか…でもそこが、私ら世代には「むしろ」丁度いい感じです。
3ヶ月通い詰めて、最近は奥さまとは少しだけお喋りできるようになっていました。うちの母とも年齢が近い方なので、毎日バリバリ働く現役なのは本当にスゴイと感心してしまいます。
ご主人とも会話したことはありましたが、真剣にサイフォンを睨む眼力に圧されて、安々と声はかけられない…みたいに感じていました。お顔立ちも「職人気質」みたいな雰囲気ですし。
ところがそれは誤解だったようです。
今日もいつもどおりの時間に訪れた「M店」さん。すぐに奥さまが声をかけて下さいました。
「年末の帰省はどうされましたか?」
以前、帰省で悩んでます…みたいな話をさせていただいたので「断念しました」と伝えると「お母さまはお寂しいでしょうね」とお心遣い。そうだなぁ…今度、長電話でもしようかな?
ウマいブレンドコーヒーと、これまたウマいクロックムッシュを平らげて、程なく私はレジに向かいました。代金をお支払いしながら「あ、そういえば…」
東京都の緊急事態宣言発出に合わせて決まった、飲食店への「1日6万円の助成金」について聞いてみたのです。「もらえるんじゃないですか?」
ここ数日、この「緊急事態宣言」絡みの仕事で縦横無尽にキリキリ舞いさせられていたので、今の私の頭脳にはその辺の細かいデータがビッシリと詰まっているのでした。
と、この瞬間!ご主人が反応。お客さんよくぞ聞いてくれました!ってなもんです。
当然、一城の主であるご主人が飲食店への助成金について知らないはずもなく、知り合いの会計士などを通じて情報は集めていたそうです。
しかし、今回の助成金は恐らく「ご遠慮するだろう」ということでした。
まず、自分の店は通常18時には閉めてしまう店であること。そもそも全盛期ほどの客入りもなく、そんな状態でも夫婦二人でならやっていけるわけで、店を閉めなくていいのなら助成金に頼るほどではないということ。
前回の緊急事態宣言の際にもお国に助けてもらっているので、今回はなんとか独力で頑張ってみよう…ということ。
前回の助成金での手続きが思いのほか面倒だったから、というのもあるそうですが、私はそのお話を伺って胸が熱くなりました。
「独立してるって、こういうことだよな!」と。
そのお話の後、お店の歴史「40年の栄枯盛衰」について、小一時間ほどお話を伺いました。私もいろいろ質問させていただいて、ちょっとした取材みたいになりました。
そうこうするうちに、「おっと、これも見てくださいよ」とご主人から渡された封筒。そこには「新潮社」とありました。あの新潮です。
中には「色ゲラ」が2枚。どうやら雑誌の取材を受けたらしく、見出しによれば「新宿で生き残る老舗喫茶店」的な内容の特集記事でした。
何店かの店内がさすが新潮、きれいな写真で掲載されています。私もかつては様々な大手出版社に雇われていた身。新潮の仕事も受けてましたから、この手のゲラを見るととても懐かしい想いが蘇ります。
特集の扉(表紙)になるゲラも拝見。なんと!「M店」さんのご夫婦がデカデカと表紙になっているではないですか!?ご主人シブく写ってますよ!奥さん可愛く写ってますよ!
こりゃあ自慢なんだろうな~と思ってさらにお話をふくらませると、そういえばコレも…と出された「読売新聞」。
なんと運動面の「5段広告」に丸々お二人の、これまたお洒落な写真が使われているではないですか!?何?何なの?このご夫婦、有名人なの?
さらにさらにお話を伺うと、さだまさしさんのPVにもワンカットで出演しているとのこと。ちょ!凄すぎる!
自慢話には違いないのでしょうが、ご主人の話し方に何とも言えないユーモアと照れがあって、話を伺う私もだんだん嬉しくなってくるのでした(*´∀`*)
面白おかしく、いろんなお話を聞かせていただきまいした。しかし実際の40年間の紆余曲折は、苦しいことのほうが多かったかもしれません。
しかし私は、ご主人の瞳に宿る気概こそ、2021年までお店を存続させたエネルギーなのではないかと思いました。長年地元に根ざし、しぶとくも誠実にやってきたからこそ今の自分たちがある。かつて近隣に10軒以上もあった喫茶店が自分たちだけになってしまった今でも…朴訥なご主人の言葉は、息子のような年齢の私に「大先輩からの薫陶」として響いたのです。
それは恐らく、「M店」というブランド存立の戦いだったのではないでしょうか?ご主人が愛情を込めて「彼女」と呼ぶ奥さまとの二人三脚…まさしく「家族経営」だからこそ、ブレずに残った「味」なのです。
ブランドが変質せずに存続することは、それを応援する者にとっては僥倖の一つです。
例えばウエストコーストなロックテイストが特徴だったバンドが、新ボーカルの参加をきっかけにバラード路線に移行したら…戸惑いますよね?(例:ドゥービー・ブラザーズ)
腕時計業界も同じです。
多くのブランドを取り込んだ大資本のグループは、当然ながらそれぞれのブランドのラインアップを「被らないように」再編し始めます。スウォッチ・グループなんかは顕著ですよね。特に中の下くらいに位置するブランドはその煽りをもろに受けている感じです。そうなると、最早ブランドの存在意義すら怪しくなってしまいます。しかし昨今は残念なことに…巨大資本の下での安定経営を目指すブランドが多いのが現実です。
となると、一条の希望の光と言えるのは「独立系ブランド」なのでしょうか?
140年以上にわたり家族経営を続けてきた「オーデマ・ピゲ」のブレないモノづくりは、それこそ「血族の証」とでも言うもの。それは凄みでもあり、製品の価値の中にある種の「矜持」を感じさせる所以でもあります。私も数年ロイヤル・オークのオーナーでしたが、自分の腕に「世界最高が乗っている」という実感をひしひし感じることができました。
オーデマ・ピゲは今でこそ世界三大ブランドなどと呼ばれますが、その価値を築く道のりは平坦ではなかったはずです。
ジュール=ルイ・オーデマとエドワール=オーギュスト・ピゲ、二人の創業者が見据えた目標を見失わず、地道に経営を行ってきた結果、世界最高峰の価値を認められるブランドが完成したのです。
これは家族経営だからこそ可能なことです。「あのじーちゃんが言ってたんだからしょうがない」みたいな約束事は、他人の介入が一度でもあれば、守られることはなかったでしょう。
私が所持する中では「CATOREX(カトレックス)」も家族経営の血統を6代も続けています。そこそこのお値段で購入できる独立経営ブランドとして貴重な存在です。こちらも「売ったるで!」みたいな感じではなく、地味に地道に、コツコツやってるイメージがありますね。
「BERTHET(ベルテ)」は、おフランス政府から無形文化企業に認定されるほどの技術を有する腕時計ブランドですが、こちらも1888年の創業以来、5代にわたり家族経営を続けています。と聞くともの凄~くお高そうに聞こえますが…この「ROYAL(ロワイヤル)」なんて、この雰囲気で10万円を切るお値段ですから。
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「CATOREX」にしろ「BERTHET」にしろ、業界でのブランドポジションはそんなに高くはありません。しかし私はそこにこそ、長く長く紆余曲折を乗り越えて経営を持続できた秘訣を見るような思いがします。背伸びせず地道にモノづくりを続けることこそ、家族経営の小さなメゾンが培ってきた生存術なのでしょう。それは前述の小さな喫茶店経営も変わらないと思います。
メガブランドが総力戦で作り出す製品もいいですが、知る人ぞ知るブランドの明るい未来に期待して寄り添ってみるのも、腕時計好きの本懐かもしれません。
自分の足元を見失わずに「身の丈を知る」って、ホント大切なことですよね(*´ω`*)
PS:2000字くらいで書ききるつもりでしたが、5000字近くも書いてしまいました…何を書いてもそれくらいの長さになってしまうのは、何故なのでしょう?(;´∀`)
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