腕時計喫茶

「微妙」な時計を愛してる

あの頃「タグ・ホイヤー」は輝いていた

私が20歳代前半だった頃のTAG Heuerは若い兄ちゃん達の憧れでした。現在の感覚で見ると過剰な装飾に走ったように見える当時流行のケースやブレスも、TAG Heuerの各モデルに関して言えば、オリジナリティーをしっかり守りながらも最新の流行を的確に捉えていて、誰が見ても「時代の中心」を感じさせるブランドだったと思います。痺れましたね~(〃∇〃)

 

「6000」シリーズ。文句なしにカッコいい!

 

「セル」シリーズ。時代の変化をクラシカルでエレガントな装いに閉じ込めた名作です。これが後に「リンク」シリーズへと受け継がれます。

 

若い人がお小遣いを貯めて貯めて、最初に買う高級腕時計のブランドがTAG Heuerという時代があったわけです。手頃な価格帯のクォーツモデルもそれはそれはカッコよかった!今でも当時の雑誌を眺めていると、ジワジワ欲しくなってくる魅力に溢れています。

 

ところが近年、TAG Heuerの新作を見る度に思います。「普通やなぁ…」と。「普通」という感想はいわば…インパクトに欠けるという意味だとご理解ください。腕時計に限らず何かを消費者に買わせたいなら、何らかのインパクトが必要です。棒で殴られたような重厚な衝撃もあれば、羽根枕で叩かれたようなソフトタッチもあります。いろんな形のインパクトをその都度、私たち消費者がその時々の感情で受け取ることで「所有したい」という抑えがたい衝動がはじめて生まれるわけです。

 

その部分で近年のTAG Heuerは何かがおかしい。ライバルだったOMEGAにはブランドイメージで大きく水をあけられ、成長著しい下位のブランドからは激しい突き上げを食らっています。現在はウブロゼニスも属する「LVMH」傘下ですが、必死で業界でのポジションを模索している感じが新作にも現れてるような気がします。何やら身の置きどころがないといった風情で「もっと突き抜けてもいいのになぁ~」とじれったさを感じます。「自信の無さ」すら見え隠れします。

 

ここ10年でいえば、共に歩んできたモータースポーツの凋落も影響しているのでしょう。2003年で公式計時の任から撤退した「F1」ですが、F1人気が世界中を席巻していた頃は、TAG Heuerこそが時計人気のポール・ポジションを独占していました。しかし悲しいかな、現在はそのイメージにむしろ足を引っ張られている感じもあります。アンバサダー戦略などを見直す時期に来ているのかもしれません。

 

TAG Heuerのアンバサダー戦略といいますと、モータスポーツ以外ではやはりタイガー・ウッズとの関係を思い出します。私生活に多くの問題を抱えたタイガーは、ゴルフの成績でも次第に振るわなくなり大不振に陥ります。この頃、スポンサーとしてタイガーを支えていた腕時計ブランドがTAG Heuer「Tudor」でした。

 

ところがTAG Heuerは、スランプから脱出できずボロボロになったタイガーを見限りました。一方的にスポンサー契約を打ち切ったのです。TAG Heuerにも言いたいことはあるのでしょうが…私はこのニュースを知った時、少なからず「Heuer冷酷だな~」と感じました。一方、Tudorは真逆の扱いでタイガーに敬意を表しました。長年のアンバサダー活動でTudorのブランドイメージを高めた功労者として、兄貴格の「ROLEX」がスポンサーに名乗りを上げたのです。「ROLEXの兄貴は、タイガーの叔父貴を見捨てんかったんじゃのぉ!」まるで任侠映画を見た後のように熱いものを感じました。兄貴のそういうところは大好きなんじゃ!

 

その後のタイガーの大復活もあって、「Tudor・ROLEX」の男気が余計に注目されることになりました。そしてTAG Heuerの残念さも。「しくった~!」と思ったことでしょう。でも、あの頃のタイガーの落ちぶれっぷりを目の当たりにすれば、誰が担当者であっても「タイガー終わったな」と判断したでしょう(例の写真のイメージも大きかったでしょうし)だからこそ…何やら余計に冷たい印象のブランドになってしまったのです。

 

現在の国際社会において、特に社会に与える影響の大きな企業に対しては、失地回復の機会セカンド・チャンスを与える寛容さが求められています。TAG Heuerの購入層は当然、購入前にTAG Heuerの時計や歴史について多くを知るでしょう。その時、タイガーの一件も必ず思い出すことになるはずです。

 

私がちょくちょくお邪魔する某デパートの時計売り場さんでも、最近はTAG Heuerの良い話はあまり聞かなくなりました。売り手の熱も感じません。大人数で訪れる中国人観光客もほぼ素通り…たまたま私が居た時間がそんな感じだったのかもしれませんが。

 

主に男性を顧客とする高級時計ブランドとしては、些か厄介な「男気を感じない冷徹なブランドイメージ」が付いてしまったTAG Heuer。新作を作っても作っても「自信無さげ」な近年の展開から、脱却できるのは果たしていつなのでしょうか?

 

TAG Heuer 150th anniversary book  タグ・ホイヤー150周年記念ブック (ビッグマンスペシャル)