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腕時計デザインの「真似」はどこまで許される?

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コピー品は「論外」として、腕時計の世界で所謂「パクりデザイン」は枚挙に暇がありません。

近年発表された腕時計のデザインを見ていると「如何にして人気作に近付くか」をテーマに作ったのではないかと思えるモデルが少なくありません。安直ではありますが、人気作という「正解」を目指して模索してきた訳ですから、それら腕時計の平均点は非常に高いとも言えます。極端にダサい時計って見なくなりましたもん。

「人気があるデザイン」「売れているデザイン」をデザイン的に「正解」と言ってしまうことは乱暴かもしれません。しかし、利益追求のための商品ですから、売れていればそれを「正解」と捉えるしかないのです。腕時計は「多様性にこそ美徳がある」と考える私としては、こういった風潮は淋しかったり、つまらなかったりするのですが…(;´Д`)

例えば、ロレックスの人気作をモデルにした「パクりデザイン」は古今東西、星の数ほども存在してきました。

かつては、だれも実態を知らないような「馬の骨ブランド」の時計として、冷笑の対象でしかなかった「パクりデイトナ」「パクりサブマリーナ」などの「パクリデザイン時計」たち。それが近年はそこそこ知られたブランドからも、そういった「パクり系」に近いデザインの時計が、臆面もなく発表される傾向が見受けられます。そして、結構売れちゃうんです(汗)

某一流ブランドが作ったクロノグラフ…「アレ」を最初に見たときに感じた、何とも言えない「やっちまった感」。リューズガードがあったら、まんまデイトナ(116500LN)やないか!と思った人も多いでしょう。

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もちろん「3色のインダイアル」は健在ですし、プッシャーの形状も現行デイトナとは似ても似つきません。しかし、あのベゼルを被せた時点で、どうしようもなく連想させてしまう。離れて見たときのバランスがもう…あれなのです(;´Д`)

私もこの身の半分は「職業デザイナー」です。デザインをする上で一番最初に留意すべきは、万人から「意匠の引用」と受け取られかねない仕事はしない…ということ。これは常識も常識ですし、真当なデザイナーとしては「良いデザイン云々」以前の問題です。

当該ブランドのデザイナーさん(外部チームに委託かもしれませんが)が、そういった「基本」を承知していないはずはありません。デザイン画の時点で解るはずですし、モックを作れば一目瞭然でしょう。

「ちょ!これ!」

「似てるな…アレに」

「似てるっすね!」

 開発チーム内では、こんなやりとりがあったかもしれませんね(笑)

だとすれば、デイトナの「真似っこ」だと「解った上で」リリースしたことになります。「他人のマネはしたくない」というデザイナーの本分からいって、これは間違いなく確信犯です。明らかに「デイトナっぽい」ことを売りの一つとして考えた「戦略」ではないかと思います。

私の心情的には、2000年までデイトナの心臓部に当該ブランドのムーブメントが載っていたことも鑑みて「アレ」がデイトナの意匠に近付いても許される、そのギリギリの根拠はあると思っています。もしかしたら「アレのアレ搭載のデイトナが帰ってきた!」と喜んでる人がいるかもしれないですし…って、「アレ」が多くてスミマセン(;´∀`)

とはいえ、訳の解らん中華ブランドの時計じゃないんです。そんなことしなくたって売れるんです。元々、きちんとした個性を確立した上でブランディングを積み重ねてきた「名門」ですから、他人の褌なんか借りなくても相撲が取れるはずなんです。

でもねぇ…何かがおかしい、ここ最近の「あのブランド」。巷をざわつかせた新作ラグスポの「アレ」を見た後では、尚更そんな風に感じました。

あれも「それやっちゃいか~ん!!」的なベゼルを被せちゃいましたよね。一応は外して、ドデカゴン(12角形)にしてはいますが、ぶっちゃけ8角形以上なら何でも一緒です。どうしたって、あっちに寄っちゃうのですから(;´Д`)

そろそろあのブランドで1本…なんて朧気に考えていたところに「真似っこ」たちの登場です。これにはさすがの私も水をさされました。

そんなわけで、今後こちらのブランドの時計を入手するにしても、私なら「過去作」を探すと思います。現行品より遥かに私の好みに合致するからです。ほんの数年遡るだけで、幾らでも「名機」が出てくるブランドなんですよ。

もちろん、「アレ」とか「アレ」を見て一目惚れした人が「知らんがな!格好良かったらエエんや!」と思うのも自由です。それもまた「腕時計趣味」なのだと思います。

「真似」「寄せる」芸当自体を非難するつもりはありません。ただ、それが許される業界内のポジションってやつがあって、「アレ」を作ったブランドの場合は明らかに、もっと高い理想と信念を持たなきゃダメな組織だと思っただけなのです。それだけの「格式」があるブランドだと信じていますので。

失礼なことと知りつつも、解りやすかったので特定のブランドを例に出しましたが、そもそも腕時計業界の「デザイン」に対する権利の意識はどうなってるんでしょうね?

本来なら、よく似たデザインの時計が伸してきた段階で、オリジナルを保有するブランドが「ちょっと待った!」と声を上げても良いはずです。

「真似される」というのは、それだけのステイタスを持った存在だという証左でしょうし、手頃な価格で手に入る「よく似た何か」を購入して使うことで「本物」への憧れが余計に募るというのもよくある話です。

だからと言って「究極のソックリさん」が現れて、それが消費者を「満足」させてしまうとしたら、本来、オリジナルを保有する企業が手にするはずの利益の幾らかは、そちらに流れてしまうのです。

例えば「ロレアート」が欲しくて逡巡していた頃に出会った「アイコン」で、すっかり満足させられてしまった私のような人も居るでしょう。ロレアートがそもそもアレやないか!!という正論は置いておくとして(;´∀`)

そんな疑問を感じつつ、ここからは以前、仕事で勉強した(させられた)「著作権」「意匠権」の話を交えたいと思います。

腕時計を含む、大量生産を前提に作られた工業製品のデザインは、所謂「応用美術」の範疇にまとめられて、管理されます。

生み出された瞬間に「著作権」が発生する美術品と異なり、腕時計のような大量生産品の「意匠」を無条件に保護するような法律は存在しません。

まず、工業製品の場合、機能にまつわる権利の方が遥かに重要です。製品の見た目に関しても売りの一つには違いありません。しかし、デザインはお洒落だけど、機能的にはガタガタ…そんな家電は誰も買いませんよね?つまり工業デザインの重要性は、どこまで行っても「二の次」なのです。

機能に関する権利がクリアになっている場合、製品の外見の類似に関する問題は「その機能を獲得するための必然性」を焦点に争われます。

例えばクロノグラフのインダイアルの配置に権利を主張しても無駄でしょう。あれだけ小さなスペースに機能を集約させるなら、どうしたってこのデザインになる…そういった避けようがない機能的必然性があれば、それを個性とは認めないのが工業デザインなのです。

一応、我が国の著作権法にはこうあります。

「美術工芸品」に該当しない応用美術であっても、著作物性の要件を充たすものについては、「美術の著作物」として、同法上保護されるものと解すべきである。

ですが、問題はその「適用範囲」です。工業製品の場合「何をもって類似とするか」が不明瞭なのです。例えば前述の「アレら」のベゼルのみを以て、全体を「類似」とすることは不可能でしょう。

また、意匠法には「意匠登録を受けることができない意匠」として、こうも記されています。

物品の機能を確保するために不可欠な形状若しくは建築物の用途にとつて不可欠な形状のみからなる意匠又は画像の用途にとつて不可欠な表示のみからなる意匠。

実弟が法律関係者なので、今度暇そうなときに確認しますが…要は「腕時計の機能を得るための必然なんやったら、その形状はみんなで使わんとな!」ということでしょう。

以上のことをザックリまとめて咀嚼すると、腕時計のような大量生産品のデザインは、明らかな「完全コピー」でもない限り、著作権法、意匠法、どちらの解釈でも「法の力」でどうこうできるものではないのかもしれません。もちろん、パクリが常態化してブランドイメージにまで影響した場合、オリジナル側が危機感を感じて対策を講じる場合があるかもしれません。過去の経緯次第では、そういった法の遡及的(風)な適用はあり得る話です。

ただ現状では、オリジナルのブランドイメージを著しく侵害、または貶める影響を及ぼすものでない限り、ロレックスさんなどが他社の「真似っこデザイン製品」を云々することはないかもしれません。

以前、有名な建機メーカー同士の意匠権争いの顛末を文書で読みましたが、正直言って、どちらが勝ってもメリットは薄かったと思います。優位を誇っても意味がないなら、「共存共栄」を目指したほうが得るものは多いはずですしね。ロレックスさんもそんな風に考えているのかも?

今回の見出し「腕時計デザインの「真似」はどこまで許される?」に答えを出すとしたら、現状は「コピー品以外は見逃してもらってる」ってなことになるでしょうか。残念ながら「許される、許されないのライン」を見付けることは叶いませんでした。

平面作品なら「絶対にアウト」な状況が、延々と繰り広げられる「腕時計デザイン」の閉じた世界。何とも特殊ですねぇ。

今回は(も?)イマイチ歯切れの悪い結論しか出せなくて…すみませんでしたぁ(;´∀`)

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