腕時計好きにとって、或いは腕時計にあまり明るくない人にとっても「スイス」という国名は何となく有り難みのある響きに聞こえます。それは虚構でも何でもなくて、そりゃあもうスイスの時計・時計産業は素晴らしいものです。
しかし近年、時計のダイアル円周の「6時の位置」に刻まれる「SWISS MADE」の価値が些か怪しくなっています。利益率を上げるためにパーツの供給元をアジアに求めたメーカーが数知れないからです。特に中堅以下のメーカーが作る時計は、アップルウォッチなどのスマートウォッチと市場がモロに衝突するという、これまでの時計業界からすれば「ありえない局面」に苦しんでいます。
「それは腕時計か?ウェラブルコンピューターか?」という問いは、スマートウォッチの黎明期によく聞かれた問答の一つですが、最近の円熟の兆しを見せ始めたスマートウォッチに対する答えはこうでしょう。「それはどちらにもなりうる」
数万円の腕時計は、業界サイドから見れば完全なエイリアンだったスマートウォッチ勢力に良いように蹂躙されて、その利益をしたたかに削られました。メーカーがアジアのパーツメーカーに頼ってコストダウンを計るのも無理からぬ事でしょう。
ところがそうなると、「SWISS MADE」のラベルを掲げ続けることが難しくなります。「製造コストの6割がスイスで使われなければならない」という条件は、中堅以下のメーカーにとって、死活問題になりうる重荷だからです。
とはいえ、スイスの基幹産業の一つ、高級時計製造にとって、厳しい基準の遵守は大切な条件です。「価格以外に大切な価値がある」ということを業界を上げて喧伝しなければ、「SWISS MADE」の重みなど簡単に消し飛んでしまうことは、嘗ての「クオーツショック」を思い起こせば明らかです。
スイスの時計産業が「SWISS MADE」を必死に守ろうとしていることは間違いなく、それ故に様々な試みが行われています。日本の業界団体も「国」単位で産業を守る姿勢に見習う点は多いでしょうね。
そこでちょっとした不思議、というか謎ワードが「Swiss Military」です。
なんだか「SWISS MADE」並に有難そうな「Swiss Military」ですが、その扱いを見ていると、妙にぞんざいなのです。ぶっちゃけテキトーと言いますか(´・ω・`)
試しに「Amazon」さんで「Swiss Military」のワードを持つ時計を引っ掛けてみました。筆頭で見つかるのは「スイスミリタリー ハノワ」の時計です。
すでに人にあげちゃったのですが、私もハノワ1本持ってました。スイスのMohlinに拠点を持つブランドということです。「SWISS MADE」の署名もしっかり入っています。お安いんですけどね。
お次に見つかるのが、「スイスミリタリー バイ グロバナ」の時計です。
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デザイン的によく似ているので、セカンドラインか何かと思っていましたが、調べてみるとハノワとグロバナ、日本の法廷で「スイスミリタリー」の商標を争っていました。え?仲間じゃないの?ややこしいなぁ~(;・∀・)
さらに調べると、スイス連邦においても「Swiss Military」の商標について裁判沙汰が起きていました。1995年に「Swiss Military」を商標登録したと主張する「シャルメックス」というスイスの時計メーカーに対し、「スイス軍」の連邦国防省装備局が「ちょっと待て」と意義を申し立てたのです。
「スイス軍」って要するに「Swiss Military」ですから、これは何だか当たり前というか、そもそも論的に「一私企業にそんなもん名乗らせるなよ」という気もします。例えば、例えばですよ?「自衛隊」とか簡単に商標登録させたら大混乱起きますよね?何か関係がありそうって思うでしょうし、訳のわかんないもので登録されたら…大衆居酒屋「自衛隊」とかチェーン展開されたら、私は嫌です。絶対に(;・∀・)
スイス軍としてはいつまでも一私企業に「Swiss Military」を名乗らせとくわけにはいかんと考えたのでしょう。さっさと主導権を握りたかったんでしょうね~
ちなみに先日身につけていた時計はビクトリノックス。誇らしげに「SWISS ARMY」と刻まれています。こちらは筋金入りの「スイス軍御用達」。1800年代後半からスイス軍にアーミーナイフを納入し、NASAにも多様な工具を卸すなどする世界に冠たるナイフブランドです。ですので何となくナイフっぽい時計が多い。
この武骨な風情。腕時計界のジャックナイフですわ。
ハンドが重厚で気にいってます。現在のビクトリノックスはクオーツのラインアップがメインといった感じですが、この「インファントリー」のような自動巻き搭載品も人気があります。
時計大国の性かもしれませんが、良きにつけ悪しきにつけ、名前で商売できるネームバリューは「さすがはスイス様!」と感心します。さてこの隆盛、どこまで続きますか。
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