今回は些かビビり気味に書くことになると思います。取り上げるのは「Cubitus(キュビタス)」… 今なお話題騒然、パテック フィリップのニューモデルです。「貧乏人のお前が書くな!!」みたいなご意見は正鵠を射ていますが… どうかご容赦下さい(汗)
私なんぞが軽々しく語るべきではない時計であることは重々承知しています。そもそも、私自身は実物を拝見するルートを持っていませんからね。残念ながら近付くことさえできない時計なのです。まあ、例えルートがあったとしても、恐れ多い時計であることに変わりありませんが (;´Д`)
とは言え、今年は個人的に「ゴンドーロ(5124G-011)」と縁がありましたし、天下の雲上最高峰、パテック フィリップ相手であっても、1ミリも擦っていないと卑下するほどではなくなりました。やはり小物であっても、何かしらの接点があるのと無いのとでは、対峙する姿勢も変わってきます。持ってて良かったゴンドーロ!! (*´∀`*)
「Cubitus(キュビタス)」のラインナップをご覧下さい
キュビタスの初期モデルを3つ、ご覧いただきましょう。ノーチラスと比較してしまうと真四角に近い単純な形状である分、ともすれば安っぽいデザインに見えますが… 資料としての写真でこのレベルですからね。実物は相当にゴージャスなのではないかと思います。肉眼で見てみたい!!
5821/1A – Cubitus
まずはシンプルなステンレスモデル「5821/1A」です。ステンレスであってもラグジュアリーとして認めさせるのがラグスポの使命だとすれば、このモデルが多くのファンの大本命になりますね。
5821/1AR – Cubitus
こちらはステンレスとローズゴールドを使用したツートーンがエレガントな「5821/1AR」です。予言しても良いかもしれません。このデザインにこのツートーンカラー、アチコチで真似されると思います (;´∀`)
5822P – Cubitus
日付、曜日、ムーンフェイズ表示の「Cal.240 PS CI J LU」を搭載したプラチナケースのコンプリケーション「5822P」。やれやれ、このダイヤルを土台に、よくぞこれだけバランスの取れたサブダイヤル配置にできたものです。私がデザイナーだったらどうするかとシミュレーションしてみましたが、私ならスモセコを3時位置にします。じゃあロゴはどうするんだよ!! って話ですが… ベゼルにでもレーザー刻印しますか!!
ああ… 良いですねぇ「キュビタス」。どれも素晴らしいですが、私は特にコンプリケーションが素晴らしいと思いました。ある意味ちゃんとパテックですもの (*´ω`*)
欲しいか欲しくないかで言えばそりゃあ欲しいですよ。先立つものがないので「別世界の出来事」として処理できていますが、もしもここに「購入資金」があればどうでしょうか?? 私の答えは次の段に書かせていただきます。
「Cubitus(キュビタス)」が買えるなら「Nautilus(ノーチラス)」が欲しい
さて、先に私個人の考えを述べておきます。例えばここに「キュビタスを買えるだけの資金がある」としましょう。恐らく私はパスします。それなら「ノーチラス」が欲しいからです。
ノーチラスを持っていての「キュビタス」ならアリな気もしますが、そこを飛ばしてキュビタスに大金は出せそうもありません。例えるなら、アマレスを経験せずにプロレスラーになる感じでしょうか??(解りづらくて申し訳ない)要するに、経験すべき経験を経験していない気がするのです(さらに解りづらく)
ノーチラスを所持していての「2本目なら最高」ですね。アクアノートはノーチラスの実の弟って感じで似てますし変化が少ない。それでもスポーツ系で2本目ということであれば「キュビタス」が丁度良い感じの振り幅かもしれません。
どっちみち、ステンレスケースの3針で653万円(Chrono24.jp さんで確認したら2300万円)です。生まれ変わっても買えなんですけどね!! (;´∀`)
「キュビタス」の出現で「ノーチラス」は過去の遺物に成り下がるのか??
歴史を振り返れば、天下のノーチラスにも不遇の時代はありました。今では信じられませんが、当初は売れなかったのですよ。当時の富裕層の感覚だと「中途半端な時計」にしか見えなかったのでしょう。今ほどの多様性は認められませんでしたからね。
だからこそです。だからこそ「ノーチラスは尊い」。時間をかけて歴史の針を進め、今の隆盛に繋げたのですから。
ノーチラスを購入すると言うことは、パテック フィリップの苦悩と転換の営みに共鳴することでもあるのです。即ち、ノーチラスこそが現代パテックの全てを背負っている時計であり、その有り難みには筆舌に尽くしがたいものがあります (*´∀`*)
ですから「キュビタス」が幾ら話題になったところで「ノーチラスの境地」に辿り着くことはないでしょう。方法論が確立した現在だから生まれたキュビタスとノーチラスでは「出自の重さ」が違います。キュビタスにとっては今後も「偉大な先輩」であり続けるはずです。
というわけで、数百万、下手すりゃ数千万円も支払うのであれば、パテックの全てをオールインワンで味わい尽くせるスーパーアイコン、ノーチラスが欲しいと思う私です。「キュビタス」に目を向けるのは10年後でも良いかなぁ~(10年後って収入あるのかなぁ…)
トレンドセッターとしての「キュビタス」は是か非か??
「キュビタス」に関してはすでに多くのメディアが取り上げていますし、ザッと読ませていただくと大抵が好意的な文脈でした。「新しい時代を切り拓いた」まさにそうだと思います。プロダクトとしての完成度にはさすがの一言しかありません (*´ω`*)
ただ、渋い渋いパテックに憧れてきた私なんぞにしてみれば、雲上ブランドの頂点であるパテック フィリップが腰を折って、一般消費者層に目線を合わせてきたように見える点に、ある種の「失望」を感じています。
ハイブランドは「孤高であるべき」です。高嶺の花として遙かな頂にあるからこそ、手が届いた瞬間の恍惚が絶対的な意味を持つのです。
キュビタスも価格的には「高嶺の花」に違いありません。しかし、若者層への歩み寄りが見受けられるコンセプトには心を奮わせる「恍惚がない」のです。
トレンドを作るという初期の目的は見事に達成されたと思います。どこぞからリークされた画像で「こんなものをパテックが作るはずがない!!」「いや、これは間違いなく現実だ!!」と世論が撹拌されるたびに期待値は高まりましたし、いざ、リリースされた実物はコアな好事家たちを十分に納得させるものだったと思います。「アンチを含め全ての反応が金になる」… SNSで社会が繋がった現代ならではの上手な展開でした。
その瞬間、キュビタスは「トレンド」になったのです。そしてこのトレンドがパテック フィリップだけに留まると考えている関係者の方が少ないのではないでしょうか?? 何せ業界のトップランナー、パテックのやることです。トレンドのうねりは次第に大きくなり、業界全体に波及するでしょう。下手すりゃ数ヶ月足らずで、よく似た何かがマーケットに登場するかもしれません。すでにどこぞのマイクロブランドが製品化に向けた設計を始めたかもしれませんよ (;´∀`)
パテック フィリップが背負う「十字架」と、古豪としての分かれ道
やたらとポップなカラトラバ「6007G」や、まるでノモスだった「6127G-010」を見たときはそこまで思わなかったんです。しかし今回の「キュビタス」にはハッキリと感じました。「パテックも本当は苦しんでいるのかな」と。
創業が古いブランドはどこも同じだと思いますが、パテック フィリップの場合も大小様々な経営判断に「歴史の諸々が『待った』をかけている」はずです。しょうがないんですよ、それだけの歴史なんですから。
貴金属が使われていないただのステンレスウォッチに二次市場で数千万円の値が付くのは、どう考えても「歴史に敬意を表して」のことです。ゴンドーロは良いのですよ。ホワイトゴールドだから!!(笑)
積み重ねてきた歴史はパテックにとって最大の価値でもあり、同時に下ろすことのできない「重量級の十字架」なのです。キュビタスのリリースで世間の反応を一番恐れているのはパテック フィリップ自身でしょう。カラトラバなどクラシカルなモデルを中心に築いてきたユニバースとの間に「価値観の相違」… 亀裂が生じる可能性も否定できません (;´Д`)
ブランドにとって「熱心なファン」は「手強い存在」でもあります。彼らは自らにとって居心地の良いパテックを望むでしょうし、キュビタスのリリースでパテックが企図するような「支持層の転換と拡大」が起きれば、古参のファンが大切にしてきた美しい箱庭が無残に踏み荒らされるかもしれません。
そうして古くからの支持層が離脱を始めたとしても、永久不滅のパテックであり続けることができるか… 痛みに見合った大きな利益をもたらす存在になれるか否か、完全新作「キュビタス」の今後の売れ行きが、パテック フィリップの命運を握っていることは間違いなさそうです。
消費者が「パテック フィリップ」に求めるものは確実に変化している
私が身の丈を超えた金額の時計を狙っていた昨年末から今春にかけての期間、周囲のコレクターさん(私よりはるかにお金持ち)に対して「300万~500万円の間でパテック買うんやったら、何を狙ったら良いと思う??」という質問を何度か投げかけたことがあります。
「500万でパテックを買おうという考えが甘い!!」と諫められることがほとんどでしたが、私も負けていません。「カラトラバやったら色々あるやん!?」と返しましたよ。ところが「カラトラバだったら買わなくていい!!」と仰る方が意外と多かったのです。不思議でした。全てのドレスウォッチの頂点足る「カラトラバ」ですよ??
これに関して私は、現代の比較的若年の腕時計好きさんのモノサシがそうであるからではないかと分析しました。大人気のラグスポ「ノーチラス」が高価なのは解るが、地味なドレスウォッチである「カラトラバ」が高価なのは理解できない… みたいな感じです。まあ、解らなくもない意見です。二次市場での扱いだって雲泥ですからね。
その考えに沿えば、大胆な舵取りで世間をざわつかせる「キュビタス」などは「高価でも仕方がない時計」なのでしょう。先々は解りませんが、今のところは上場の評判で上々の走り出しに見えます。
「カラトラバはいらない」という意見が100人に一人だったとしても、パテック フィリップにとっては不本意極まりないことでしょう。ただ、当のパテック自身がそこを理解して「キュビタス」を生み出し、いずれは衰退するかもしれない「純ドレスウォッチ」の代わりに育てようと本気で考えているのだとしたら、パテックは歴史に胡座をかくだけではなく「聞く耳を持った」柔軟なブランドであると言えるのかもしれません (*´∀`*)
最後に… パテックだからこその驚きだった「キュビタス」の登場
想像してみてください。これがゼニス辺りから出たキュビタスだったなら、こんな騒ぎにはならないはずです。ゼニスには「予測不能」で「無軌道」な面白さがありますからね。この生き馬の目を抜く腕時計業界で何やかんや生き残っているのは、あのタフな生命力があったればこそでしょう。ところが、パテックともなるとそうはいきません。
実際、ワタクシ程度のパテックオーナーですら、どこか「信じたくない」気持ちがあった「キュビタス」のリリースです。あのパテック フィリップがこんなものを出すわけがない… そこまで言いたいわけではありませんが、リーク画像が良くできたフェイクに見えたのは確かでした。それだけの違和感があったわけです。
パテックにとっての一番の財産が「歴史」であることはお伝えしました。歴史とは「線」です。紆余曲折が時間とともに上向きの線として繋がっていき、ときに立ち止まり、ときに振り返り… そんなブランドとしての「旅の軌跡」がファンにシンパシーと安心感をもたらすことで、鉄壁のユニバースが完成するのです。雲上ブランドとはそういう存在だと私は考えます。
完全な新作である「キュビタス」には「歴史との接点」がありません。新作だから当然?? いやいや、パテックともなれば、力業で時計界屈指の歴史を背景に因果関係を捻り出し、ファンが納得するしかない作品として「キュビタス」を送り出すことだって可能だったはずです。
例えば「四角いゴンドーロのスポーツモデル」としてのキュビタスだったなら… 私は泣いて喜んだでしょう。そういう可能性だってあったはずです。あ、でも、真四角にはできなかったかも??
いや!! あのレベルソにだって「スクアドラ」があったのですから「ゴンドーロ・キュビタス」だったとしても驚きはありません。
※で、ジャガー・ルクルトの歴史でスクアドラはどうなったかですって?? 私みたいな時計変態だけが溺愛する「変態ポジション」に収まりました (;´Д`A
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