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「エボーシュ搭載だと売れない」は、この先もしつこく続くのか??

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 「Manufacture d’horlogerie(マニュファクチュール)」という言葉の語源は中世ラテン語の「manufactura(手作業による作成)」にあるそうで、語源だけ見ればそこに腕時計界隈で言われるような「自社開発」的な意味合いは見受けられません。

 そこで現在の欧州、腕時計製造の本場であるスイスになら何らかの基準が存在するのではないかと考え「マニファクチュール」という表記の扱いを調べてみました。なんせスイスには「メイド・イン・スイス」に関する厳しい基準(時計全体の60%以上がスイス国内で生産されたもの)などがありますし、マニュファクチュールを名乗るにもそれなりの達成項目があるのではと考えたからです。

 結論から申しますと、具体的な取り決めは見付かりませんでした。「スイス連邦原産地表示法(Swissness法)」にしろ「スイス時計業連盟(FH)」にしろ、マニュファクチュールに関しては「ザル」と言って良いかもしれません。

 ちなみに私が「マニュファクチュール」と聞いてパッと思い浮かぶブランドは「Patek Philippe(パテック・フィリップ)」「Audemars Piguet(オーデマ・ピゲ)」「Vacheron Constantin(ヴァシュロン・コンスタンタン)」「Jaeger-LeCoultre(ジャガー・ルクルト)」といった大御所ばかりです。この辺りのブランドが「わしゃ、マニュファクチュールじゃけん!!」とふんぞり返ったとしても、誰も文句は言わないでしょう。特に「ジャガー・ルクルト」には雲上三大ブランドを歴史的に支えてきた「高級機専用ムーブメントメーカー」としての顔もありますし、ムーブメントを軸にして考えると「図抜けた存在」かもしれません。

 まあ要するに、冠に「マニュファクチュール」とくれば「超高級ブランド」を意味するのが腕時計です。言葉としての「マニュファクチュール」は些かボンヤリとしているものの、自力でほぼ完全に腕時計を作りきることのできる実力と実績を持ったブランドへの「尊称」であることは確かでしょう。同時に「易々とは買えないシロモノ」であることも表わしています (;´∀`)

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買える「マニュファクチュール」

 恥ずかしながらワタクシ、ここ最近ものすご~く欲しくて仕方がない時計がありまして。恥ずかしいなぁ… でも言っちゃおう!! それは「FREDERIQUE CONSTANT(フレデリック・コンスタント)」「クラシック ワールドタイマー マニュファクチュール」です。リリースから10年ぐらい経過しています。

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PPの代替品としてもかなり上等の部類 出典:https://frederiqueconstant.jp/

 インハウスムーブメント「FC-700」ベースの「FC-718」を搭載したワールドタイマーでして… まあ要するにパテックのアレみたいなアレを遙かにお得な価格で手に入れちゃおうかなぁ~ みたいな野望です。

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出典:https://frederiqueconstant.jp/

 実際、めちゃくちゃ格好良くないですか?? PPのワールドタイムを真似っこした時計は幾つもありますが、PP並の上品さで上手に纏まっているのはフレコンの「クラシック ワールドタイマー」くらいではないかと思います (*´∀`*)

 かつて、いち早く新世代の調速機「シリコン製モノリシックオシレーター」を採用したり、旺盛な開発力でマニュファクチュールムーブメントを次々にリリースし続けたりと、フレデリック・コンスタントは戦略的な価格で「買えるマニファクチュールを揃える中堅ブランド」としての立ち位置を確立してきました。

 正直「他の中堅どころは何やっとるんじゃい!?」と言いたくなるくらいのスピード感で、必要な自社製ムーブメントを生み出し続けているフレデリック・コンスタント。もちろん、自社開発品がエボーシュよりも優れているという話ではありません。そんなことは確率論的にあり得ないのです。

 ただ、性能で上回れないのであれば自社開発など「リソースとエネルギーの無駄」と考えるブランドがあったとして、フレコンの答えは「それでも自分で作る」だったのでしょう。フレコンのそう言うところ、嫌いじゃありません (笑)

 そもそもブランドのトップが旗をブンブンと振り回したところで、開発力がにょい~んと伸びるわけではありませんよね??

 フレコンの場合は「ピム・コスラグ」さんという突出した才能が入社したことで「自社開発」の可能性が飛躍的に高まったそうです。これまでに30種類以上の自社開発ムーブメントを世に送り出しているとのこと。確かになぁ… たった一人の才能の出現が、大組織の未来を塗り替えることがありますからね。

「マニュファクチュール」を名乗れるか否かで「天と地」!?

 フレコンが「マニュファクチュール コレクション」を充実させるのも、オリスのように「エボーシュを使ったエタブリスールとしても評価されていた」ブランドが、付加価値の高い「自社開発ムーブメント」に走るのも、そうしなければブランドのステージが一向に上昇しないからでしょう。

 これは腕時計製造にとって余り良い傾向とは言えません。もしも腕時計を一個の「芸術」として見るならば、エボーシュだろうが何だろうが「パッケージとしての完成度」で評価されなければなりません。美術に例えたら「油絵など手書きのアートは素晴らしいが、デジタルアートは邪道」と言っているようなものですからね。

 テクニックや画材に関わりなく純粋な「最終形」で評価してこその芸術。エボーシュだろうがエタブリスールだろうが、最終的な時計が「格好良く」「素敵」であるならば、余計な不純物の如き拘りは捨てて評価すべきだと思います。

 そもそも「この素敵な腕時計の安さの秘密は何だ??」ときて「エボーシュだからか!!」と落胆する流れがおかしいのです。「エボーシュだからこんなに格好良い時計が安く買えるのか!!」と喜ぶべきところなんですよ。本来は。

 ただ、圧倒的に「前者」が多いのは揺るがない事実。この先は「何故エボーシュだとしょんぼりされるのか??」その心理状態を解き明かして行きたいと思います (・ω・`*)

「エボーシュ」ではいけないのか??

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Sinn 556.I.RS(Sellita Cal.SW200-1)

 先日、某ブティックでとあるエントリーモデルを試着しました。「ああ、こりゃあ良い塩梅の時計だなぁ」と気に入った私は、何の気もなしに「中はエボーシュですよね~」と質問したわけですが… その一瞬、スタッフの方の表情に浮かんだ「曇り」を私は見逃しませんでした。

 「気になっちゃいますよね??… やっぱり

 価格から推測して「当然そうだろう」と確認のつもりで質問したわけですが、スタッフさんの反応は「エボーシュ搭載」で何度も「売れる機会を喪失」してきたことへの、トラウマ的な根深い何かを感じさせました。いやいや、エエんやで?? おっちゃんはエボーシュでも怒らへんで?? (;´Д`)

 実際、残念ながら未だにエボーシュ(ETAやセリタなど)を忌避される方は少なくないそうです。5年ほど前に大阪の販売店で「エボーシュだと解ると残念そうな顔になるお客さんが多い」と聞いた状況は、正直それほど変化していないのでしょう。

 確かに「有名エボーシュ」の値上りで「安物」のイメージは払拭されつつありますが、マニュファクチュール信仰がより根強くなる昨今においては、相対的なイメージの距離感は変わらないのかもしれません。

 エボーシュ搭載だと人は何故ガッカリするのか??… 以下に反射的感情の発生原理とも言える「思考」の幾つかを書き出してみました。思い当たるフシはありますか??

1. 独自性の欠如

 ETAやセリタのムーブメントは多くのブランドで採用されているため、オリジナリティに欠けると感じる人がいます。特に高価格帯の時計で汎用ムーブメントが使われていると「この価格なら独自開発ムーブメントが欲しい」という意見が出がちです。

2. ブランドの価値観との不一致

 時計ブランドに対して「自社製ムーブメントを開発・製造することが高級時計の条件」という先入観を持つ人もいます。エボーシュを使用していると、ブランドが「本気で時計作りに取り組んでいない」と見なされることがあります。

3. 価格に対する不満

 エボーシュは汎用性が高く、コストが比較的低いと認識されているため「高価な時計にエボーシュを使うのはコスト削減のためだ」とマイナスに感じる人がいます。特に、ETAやセリタのような既存ムーブメントをカスタムする程度では「価格に見合う価値がない」と批判されることがあります。

4. 希少性やステータスの追求

 自社製ムーブメントを持つ時計は、より手間がかかり、製造数が限られるため、コレクターにとってステータスシンボルとされることがあります。そのため、エボーシュ使用の時計は「特別感がない」と敬遠される場合があります。

5. ETAの供給停止問題の影響

 ETAが一時的に他ブランドへのムーブメント供給を制限した時期があり、この影響で「エボーシュに依存するブランドの脆弱性」を懸念する声が生まれました。この歴史的背景から、自社製ムーブメントを持つブランドが後々優位と考える人もいます。

 こんなところでしょうか?? どれもこれも「さもあらん」としか言えない疑念ばかりです。

「エボーシュ」で良いんだよ!!

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Sinn 903.ST.AUTO(ETA Cal.7750)

 それでも「エボーシュ搭載品」を支持し、あまつさえ率先して買い求める人の考え方についても、記しておきたいと思います。これは簡単です。ワタクシのことですから。

 簡単に申しますと、私は「エボーシュが好き」なのです。大量生産品が安定した性能を叩き出していることに対する巨大なリスペクトもあります。

 多種多様なブランドに「中央値」としてのムーブメントを供給し続けるエボーシュメーカー。さらに近年はメーカーの意向に合わせた「カスタマイズ」にも拍車がかかっていますし、ある意味、エボーシュメーカーの方向性が腕時計業界の舵を握っているという事実も軽視できません。

 そもそも、パワーリザーブの延長などを「趣味性」から「実用性」へと昇華させ、トレンドとして定着させたのはエボーシュメーカーです。エボーシュがあるから機械式腕時計は進化し、市場の成長性も保たれていると考えれば「エボーシュの何たるか」を理解することは簡単です。

 「エボーシュ最大の利点」は、膨大なユーザーからのフィードバックに基づく高い信頼性。部品入手の容易さによる高いメンテナンス性でしょう。特にETAやセリタのムーブメントは長期にわたる供給実績があり、メンテナンス性も長く保たれています。それなのに「安い」のです。エボーシュ搭載品で腕時計を学んできた方ならば、恩義こそあれ軽視する対象でないことは明らかです。

エボーシュだと「売れない」と嘆く販売員さんへ

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Baltic Bicompax 003(Seagull Cal.ST1901)

 お客さんに対して様々なアプローチを試みている全世界の腕時計販売員の皆さま、面白い時計への出会いをこれでもかと提供して下さった皆さまの努力に、この場を借りて感謝申し上げます。素人には理解できない多くの苦労がおありでしょう (;´Д`)

 ブランドの歴史やデザインの変遷を頭に叩き込み、唯一の武器としてお客さんと対峙していることでしょう。理解の早いお客さんがいれば、何を言っても納得してくれないお客さんもいるはずです。

 流れるような対話スキルでお客さんの購買欲を最大値まで盛り上げて、あとは購入の決断のみ… そんなときかもしれません。「聞き忘れてました。中身は何ですか??」と一番厄介な質問がやってくるのは。

 知名度のある「ETAです」或いは「セリタです」ならまだしもかもしれません。「ソプロードです」「コンセプトです」とくれば、それこそ「なんですかそれ??」と首を捻られる可能性もあります。ちなみに私の手元にあるに搭載される「エボーシュ」のメーカーはこんな感じです。

砂布巾が所有中のエボーシュメーカーと主要ムーブメント
ETA(スイス・スウォッチグループ傘下)ETA 2824-2, 2892-A2, 7750など
Sellita(スイス)SW200(ETA 2824-2互換)、SW300(ETA 2892-A2互換)、SW500(ETA 7750互換)など
La Joux-Perret(スイス・シチズン傘下)LJP G100(ETA 2824互換)、LJP L100(クロノグラフ)など
Soprod(スイス)A10(Alternance 10)(ETA 2892-A2互換)など
Miyota(日本・シチズン傘下)Cal. 8215, 9015など
Seiko Instruments(日本・セイコーグループ傘下)NH35A, NH36など
Ronda(スイス)Ronda 515など
Hangzhou / Seagull(中国)ST2130(ETA 2824互換)など

 すでに結構なところ網羅してますねぇ(笑) さらに近々、「コンセプト」が加入するかもしれません (;´∀`)

 この中で「おお!! 良いねぇ!!」なんて言ってもらえるのは「La Joux-Perret(ラジュー・ペレ)」くらいしかありません。ETAもセリタも最近は値上りしましたし、小規模メーカーがおいそれと手を出せるエボーシュではなくなったはずですが、こびりついた「安物イメージ」は簡単に払拭できないようです。

 少々古い知識として「エボーシュ=安物」を擦り込まれたお客さんに対して「情報が古い!!」「今は高くなっとるんじゃ!!」と憤ったところでエボーシュ搭載品は売れません。そこでワタクシ、老婆心ながらエボーシュに対する「イメージアップ販売戦略」を構築してみました。

1. 信頼性と実績を強調する

 まずは実績のあるムーブメントであると安心感を与えるため「信頼性」を前面に押し出します。

 「この時計に搭載されているETAやセリタのムーブメントは、何十年にもわたる実績があり、信頼性が非常に高いです。世界中の時計ブランドがこのムーブメントを採用しており、安定した精度と長いメンテナンスサイクルが魅力です。万が一の修理でも部品が簡単に手に入るので、安心して長く使えますよ!!」

2. コストパフォーマンスの魅力を伝える

 エボーシュがもたらす「コスト面のメリット」を明確に伝え、価格以上の価値を感じてもらいます。

 「この時計はエボーシュを採用することで、価格を抑えながらもデザインや仕上げ、素材に力を入れています。同じクオリティで自社製ムーブメントを搭載した時計だと、倍以上の価格になることも珍しくありません。この価格帯でこれだけのクオリティを提供できるのは、エボーシュを採用しているからこそなんです!!」

3. ブランドの価値観やクラフトマンシップを伝える

 「エボーシュカスタム」である場合、ベースムーブメントをどうブランドが工夫して独自性を出しているかを説明します。

 「このブランドはエボーシュをベースにしても、自社で調整を加えて精度を高めています。ケースやダイヤル、針などの作り込みに注力しており、エボーシュを選ぶことで、本当に大事な部分にリソースを集中させています。このこだわりは、時計好きの方にこそ特に評価される部分です!!」

4. 高い「メンテナンス性」のアピール

 実用性やメンテナンスのしやすさは、特に「初めて機械式時計を購入する方」に響く要素です。

 「このムーブメントは汎用性が高いので、定期メンテナンスや修理が非常にしやすいです。どの地域でも多くの時計技師が扱えるため、長く安心して使っていただけます。時計は所有するだけでなく、長く付き合っていくものなので、こういった実用面も非常に大事です!!」

5. 実際に体験してもらう

 実際に触れてもらうことで「ムーブメントの魅力や時計全体の完成度」を知ってもらいます。

 「このムーブメントを使った時計は巻き上げの感触が滑らかで、日常使いにぴったりです。ぜひ手に取って、実際に巻き上げや針の動きを感じてみてください。汎用ムーブメントの品質の高さを感じていただけるはずです!!」

6. 時計全体の魅力を伝える

 ムーブメント以外の要素に目を向けさせ「総合的な魅力」を伝えます。

 「時計を選ぶときはムーブメントだけでなく、デザイン、仕上げ、着け心地、そしてそのブランドの歴史やストーリーも大切です。この時計はムーブメントも信頼性が高いですが、それ以上にケースの美しさや、手首にフィットする感覚が素晴らしいです!!」

 ってな感じですが… 如何でしょうか??

 この戦略を展開する前提条件は「最初にエボーシュであることを伝える」にあります。伝え聞いたエボーシュ搭載を否定的に捉えているお客さんであれば、後ろ向きなイメージを逆進して「理解してもらうプロセス」に乗せることで、エボーシュに対するアレルギーを払拭してもらうことができるかもしれません。

「エボーシュ」から入れば多くを学べる

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Victorinox Swiss Army Infantry(ETA Cal.2824-2)

 「完全な自由」を与えられたクリエーターが四苦八苦するサマを何度も見てきました。人ごとではなく、私自身も多くのクリエイティブワークで「過剰な自由裁量」与えられ、ほとほと難儀した記憶があります。

 余程の「天才」でもない限り、人間は一定の条件に縛られた方が思考の発展が容易になる生き物です。これは腕時計製造に置き換えても同じことが言えると思います。

 例えば古今東西、様々な腕時計に詰まれ実力を発揮してきたETA「2824-2」ですが、時計の顔だけを見れば、それぞれに同じ2824-2が使われているとは思えないほど、使われ方にはバリエーションがあります。それは与えられた「2824-2」という条件に対して向き合う中で、クリエーターたちが苦労した証です。エボーシュ搭載の時計を使えば、それら「不自由」「自由」に転じさせる多くのテクニックに触れることができます。

 また機構においても、大量生産での歩留まりに配慮した知恵の数々を学ぶことができます。安価に製造可能なプレス加工の部品であっても、充分な精度と操作性を生み出せるのだと知るでしょう。

 エボーシュの多くがユーザーフィードバックに対して真摯にリファインを続けています。使うことで得られる「学び」「気付き」。それらを返すことでさらに良くなる「エボーシュ」。機械式腕時計の教材として、これほど優れたものはありません (*´∀`*)

それでも、同じ値段なら「マニュファクチュール」を買う

 これは当然でしょう。例えば前述のフレデリック・コンスタントの「クラシック ワールドタイマー」「70万円弱」とマニュファクチュール ムーブメント搭載としてはとんでもなく安いわけですが、同じ価格で似たようなワールドタイマー(エボーシュ)があったとしましょう。

 「エボーシュ搭載品を買いますか??」… ないですよね?? (@_@;)

 では質問を変えます。ブライトリングの「ナビタイマー オートマチック 41」とフレコンの「クラシック ワールドタイマー」を比較します。タイプがまるで違う時計ですので見た目の好き嫌いは排除して下さい。

 さて、前述通り「クラシック ワールドタイマー」は自社製ムーブメント搭載です。方や「ナビタイマー オートマチック 41」はETA 2824-2 ベースの「Caliber 17」を搭載しています。さあ、どちらがより「ありがたい時計」でしょうか??

 70万円弱のフレコンに対して、ナビタイマー オートマチックは「77万0000円」です。安いのに「マニュファクチュール」って方が、当然ありがたいですよね??

 ブランドの立ち位置も違いますし、この比較は少々酷だった気もしますが、自社製ムーブメントを載せた時計に対する「エボーシュ搭載品」の存在感は「価格が下回ってこそ」高まるのです。

 ナビタイマー オートマチックにしてみれば「ムーブメント以外の素晴らしい作りで、そのアンビバレンツを解消しているのだ!! 」と自己弁護するかもしれないですし、私個人も好きな時計です。ただ、理由はどうあれ、エボーシュベースの時計がマニュファクチュールを「価格で上回る」のはいただけません。

「カスタム・エボーシュ」は自社製か?? 毛の生えたエボーシュか??

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MAURICE LACROIX AIKON MANUAL CLUB JAPAN EDITION(ML145-Sellita Cal.210)

 古くはタグ・ホイヤー辺りで揶揄された「エボーシュの名前乗っ取り」については未だに好きになれません。しかし、ある程度の改造を施したエボーシュに対しては、また違った感情が沸いてきます。要するに、それは「自社製か」「所詮はエボーシュか」という問題定義です。

 「なんちゃらと共同開発」が昨今の流行ですよね?? もしもインハウスであることがマニュファクチュールを名乗る最低条件であるならば「カスタム・エボーシュ」なんて完全にただのエボーシュです。

 しかし、インハウスであることを条件から外し、コラボレーティブやハイブリッドの取り組みを評価するなら、カスタム・エボーシュの中にも「半自社製」と呼べるものがあります。性能の底上げなどはなくても、見た目の「魔改造」でエボーシュ感を払拭したムーブメントであれば、消費者の目にも何やら「特別な時計」に映るかもしれません。要するに取り組みとして「説得力」があるかどうかなのです。

 この辺りに確固たる基準が存在しないからこそ、消費者… 特にビギナーは混乱するのです。ブランドの刻印が施され特別な形式名が与えられたムーブメントがあるとして、そのベースになったムーブメントにまで目を光らせるのは余程のマニアさんでしょう (;´∀`)

 この「良く解らないゾーン」が余りにも広大であることが消費者の混乱を招く要因であるならば、業界が団結してルールを作るべきです。名前を与えられた「新しい分類」がそのまま「新しい価値」に昇華する可能性だってあるわけですから。

「マニュファクチュール」猫も杓子も

 私が(恐らくは)人生最後の腕時計趣味を再開させた「2017年」辺りまでは、ETAをモデファイも加えず載せただけという意味の「ETAポン」という言葉が頻繁に飛び交っていました。

 余りにも酷く揶揄されるので「それやったら何買ったらええねん!!」と憤ることもしばしば。特に「ETAポンのくせにやたらと高価」なフランク・ミュラーは槍玉の最右翼でしたが、今考えると、そこまで煽って何がしたかったのか… 謎は深まるばかりです。

 その結果が功罪のどちらに振れたかと言えば、罪の方が多かったと私は思います。

 今の腕時計高騰の原因の一つに「猫も杓子もマニュファクチュール化」がありますが、フラッグシップモデルくらいで良かった自社製ムーブメント搭載を末端まで広げて、庶民の手が届かない状況に陥らせた原因を作ったのはエボーシュに対する「不当な揶揄」でした(慌てて開発した自社ムーブメントでエラいことが起きたブランドもありましたっけ)

 反面、エントリー層に広大な空き地を作り、数多のマイクロブランドが発芽するきっかけを作った功績については認めないといけません。お陰で私なんかが腕時計を楽しめているわけですし、新興勢力にチャンスを与え、腕時計趣味に新たな切り口を与えてくれたという点では「劇薬だったが傷は治癒した」に近い現象だったかもしれません。

 これは汎用ムーブメントに頼りっきりだった時代と、外的には余り変わっていないように見えるかもしれません。マイクロブランドだって結局はエボーシュ頼みですからね。

 ですが「エボーシュへの依存」で一方的に揶揄され続けた時代と大きく異なるのは、マイクロブランドの台頭で「未開拓だった多様性」に目が向いたことではないでしょうか。エボーシュを選択することを含め、ブランドの事情と個性を尊重する空気が生まれたのです。

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Nivada Grenchen Antarctic Spider(SOPROD Cal.P024)

 つまり、ETAだろうがセリタだろうが、ミヨタだろうがSIIだろうが、ブランドと消費者にメリットのある使い方であれば、それすら個性と見なすことができるように「消費者とマーケットが変化」したのです。これは本当に素晴らしい進歩だと思います。

 あくまで「エントリーモデル」として「エボーシュ搭載の時計」を作っていた時代に染み付いた「素人さん用のイメージ」はもうありません。今は若いブランドたちがエボーシュの可能性を限界まで引き出し、「エボーシュ搭載の時計」で自分たちの命運を賭けた勝負に出る時代です。以前と現在、どちらの熱量が上か… もうお解りでしょう。

 ETAの首領でもあったハイエックさんが今も生きていらっしゃったら、エボーシュでのし上がるマイクロブランドの隆盛に目を細めていたでしょう。有名ブランドにひと山幾らの消耗品と言われて「お前らには売らん!!」と怒髪天だったわけですし(汗)

最後に… 低価格以外のメリットを伝える大切さ

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Fukushima Watch Company ODAKA(MIYOTA Cal.82S5)

 如何ですか?? 汎用ムーブメントも中々に美しいと思いませんか?? 以前よりは遥かに装飾も頑張っていますし、鑑賞に堪える価値も備えつつあると思うんですけどねぇ (*´ω`*)

 それでも最前線の販売員さんにしてみれば、現実的に「エボーシュ搭載モデル」は未だに売りにくい商材かもしれません。軽快に商談を進めて最後の最後で「エボーシュと伝えたら終わった」なんてこともあるでしょう。インハウスムーブメントに比して大幅に安価であれば説得のしようもありますが、お値段的に余り変わらないようであれば苦戦は必至…

 ただ、今回お伝えしたように「エボーシュには安いだけではない魅力とメリットがある」とお客さんに伝えることができれば「それならコッチの方がデザイン的に好きだし、エボーシュでも良いよ」と仰るお客さんだって現れるかもしれません。そもそも自社製ムーブメントと比べて実用面で何ら劣ることのないエボーシュです。価格の安さだけで評価すべきではないと理解してもらえれば「ありふれた存在」から「実績十分のスゴイやつ」に変わる可能性だってあります。「腕時計好きは皆が自社製ムーブメント好き」っていうのも、ある意味で根拠に乏しい「幻想」だったりしますしね (;´∀`)

※すみませ~ん!! ま~た長いものを書いてしまった… (;´Д`)

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ご意見・ご感想

コメント一覧 (4件)

  • 今回の記事もまたヘドバンのごとく頷くことしきりでした。私も一周回ってもしくは周回遅れでエボーシュ上等派ですが、ラドーやハミルトンのおかげかもしれません。あとマイクロブランドに重宝がられるミヨタ大好きです。

    • まりもさま、コメントありがとうございます♫
      エボーシュに何の不満があろうか?? その辺りに言及した記事でしたが、縦ノリでのご賛同、嬉しく思います(笑)

      自社製ムーブメントの美しさと独創的な機構は素晴らしいと思いますが、一方で腕時計を高騰させる元凶だったりします。
      そのアンチテーゼとして「エボーシュでも素晴らしい時計は作れる」と知恵を絞るメーカーがあるわけです。

      腕時計を一部マニアだけの「特殊な文化」にしてはいけません。
      エボーシュを上手に使いこなすメーカーこそが文化の礎を支えていると考えれば、エボーシュに対する「拒否反応」が「好意」に転じる可能性もあります。

      「エボーシュか自社製か」ではなく、腕時計単体のトータルな魅力を中心に、これからも書いていきたいと思います (*´∀`*)
      ミヨタは最高ですよ!! 世界を席巻するすごいエボーシュです。

  • 自分は汎用ムーブメントでも全然気になりません!
    と、言いたいところですが腕時計の購入をガチ検討する時は
    ちょっとは気になりますよね〜

    ORISのキャリバー400みたく保証の期間が伸びたり
    パワーリザーブや耐磁性能を引き合いに出されたら悩ましいですよね。
    (自社開発キャリバーの方が良さそう!でも汎用ムーブメントの方が安い!
     しかも見た目はそんなに変わらん、、みたいなww)

    • Y太さま。コメントありがとうございます♬
      私個人は欲しい時計があったとして、それが汎用ムーブメントポン載せだったとしても気にしません。
      デザインが好みであれば、ホント気になりません。堂々と行きます!!
      ただ、同じ値段で自社開発ムーブメントが搭載された似たような時計があったなら…
      そっちに行きます(笑)

      設計の新しい自社開発品がスペックシート上優勢なのは確かですが、
      壊れたときにかかるコストを考えると手放しでは喜べなかったりします。
      性能のバランスや今後の保守のことに目を向けると、ETAやセリタの有り難みが沁みるんですよねぇ。

      今回の記事がやっと見つけた「どストライクの時計」が「エボーシュ」だったときに、
      購入可否の判断材料の一つになれば幸いです (*´∀`*)

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