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セイコーの機械式旅団「プレザージュ」を考える

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セイコーさんの機械式腕時計コレクションの一つが「Presage」。意味はフランス語で「予言」「前兆」とのこと。セイコーさん的には「プレザージュ」と読ませたいらしいですが、私はカタカナ読みで素直(?)に「プレサージュ」だと思っていました。

読み方に関しては、ほんの数年前まで同様の表記の混在がアチコチで見られましたが、さすがに浸透したのか間違われることも少なくなりました。腕時計に興味を持つ人々に対して、名前を覚えられるくらいの市民権は得たような気がします。セイコーさんの地道な頑張りが実を結んだ結果ですね。

これまでならペットネームを与えられることもなく、地味な「型番」で呼ばれていたような渋い個体が「プレザージュ」なんて、ちょいとラグジュアリーな名前を名乗れるようになりました。その展開は世界へも広がり「セイコーの手頃な機械式は『プレザージュ』!」ってな感じになりつつあります。

こうなると、GSやクレドールのように「プレザージュだけで一つのブランド」と言っても過言ではない感じもします。しかしこれには賛否両論がありまして、オールドファンからすれば響きの良い「プレザージュ」「ひと括り」する感じが、そもそも許せないそうです。ややこしい型番をスラスラ言えてナンボって感じ…私にも解りますよ(;´∀`)

何でもかんでも「機械式はプレザージュ!」となると、やっぱり少なからず違和感はあります。私にしても「コレはプレザージュって感じじゃないよなぁ~」と感じるモデルがあるワケです。例えばですよ?誰かさんに「プレザージュとは何ぞや?」と聞かれたとします。けれども私には「こういう特色を持った時計たちが集まってプレザージュ」というのが見えないのです。何となくラグジュアリー感のあるモデルを集めた旅団かなぁ~くらいの印象…なので答えに窮してしまう。

もしもこの時代に、私がこよなく愛する「sarb033」「sarb035」が現役だったなら、間違いなくダイアルに「Presage」のロゴが刻まれていたことでしょう。昔の大学の新歓コンパのように、プレザージュサークルに「強制参加」させられていたと思うのです。それってどうなんでしょうねぇ。

そんなこんなでセイコーさんが「プレザージュ」という括りを拡大させてきたのには、セイコー製に数多ある「知る人ぞ知る名機」という存在を、もっと万人に広く「見える化」する意味合いがあったのではないかと思います。「セイコー」という広大すぎる世界観を少し絞って、気兼ねなく使える機械式腕時計の看板として解りやすい記号「プレザージュ」を設けることで、多くの人に知ってもらう機会を増やしたのではないでしょうか?

セイコーさんの強みは「時計なら何でも作れる」ことに尽きます。しかし時にはそれが「器用貧乏」に繋がり、ブランドにとって最も大切にしなければならない「個性」を埋没させてしまうことすらあります。

「何でもアリ」の姿勢は「無策」を印象づけ、消費者の興味を拡散(果ては霧散)させます。どんな商売でもそれだけは勘弁して欲しいはず。となると取り得る策は2つです。「ラインアップを絞って際立たせた『個性』を売る」か、或いは「徹底的に消費者の趣味嗜好をトレースし、対応した製品を提供する」か…

「プレザージュ」のラインアップを見ると、今のところ後者に近い戦略を取っているように思います。

世界でも数少ない「真のマニュファクチュール」がセイコーさんです。本来ならもっともっと際立つ存在のはずです。ところがメーカーとして「弱点がない」ことが「弱点」になってしまっている。スイスの有名ブランドから見ても、喉から手が出るほど高い技術を保有するのがセイコーさんなのです。機械式でもトップに立たんでどうするん!?

私が「プレザージュ」というブランドを初めて意識した「第一段階」「SARY055」を見つけたときだったでしょうか。

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(SARY055)

ダイアルには「Presage」のロゴも見当たらず、Amazonの商品説明を読んで初めて「プレザージュ」だと解る…そんな時計でした。少し大きめの「SARB035」ってな佇まいのデザインですが、今のプレザージュからすれば随分と大雑把に見える作りだったかも。「5」よりは上…そんな感じですね。ですのでそれは「プレザージュ」の名前を云々する以前の段階だったと言えるでしょう。同時期にオープンハートの「SARY053」もありました(どちらも以前は異なる型番で売られていたような…)

そして「第二段階」です。ご存知「Cocktail Time(カクテルタイムシリーズ)」の登場。小洒落たギョーシェが艶やかな光を放つダイアルを見たとき、私は思いました。「あぁ、コッチ行ったんやなぁ~プレザージュ」と。ちなみにカクテルタイムも2010年に発表された当初は、「プレザージュ」の括りではありませんでした(2017年に編入)

実際かなりのバリエーションが派生して高い人気を得ています。銀座STARBARのオーナー、バーテンダーの岸久氏をアドバイザーとして生まれたこのシリーズ。そもそも「何でバーテンダーさんとコラボなん?」と思いますよね?私も最初は時代遅れの「バブリーなセンス」を見るような気恥ずかしさを感じました。身の程知らずに背伸びしていた時代の徒花…そんな風に。

その評価が変化したのは何年も前のこと。友人との待ち合わせ前に覗いた某家電量販店の時計売場で、気まぐれに実物を拝見したからです。一番シンプルな3針のカクテルタイム。それはとにかく…宝石のようでした。

現在、中々立派な価格にまで価格が上昇したプレザージュさんですが、カクテルタイムシリーズに限って言えば、どれも手頃な価格帯(8万円くらいまで)に収まっています。

この価格帯にカクテルタイムのような、美しく野心的なモデルを配置していることが重要です。これは私がかねてより発信し続けてきた「エントリーにこそ、ブランドを体現する時計を用意すべき」という考え方にも合致します。「安くて、格好良くて、作りの良い時計」以上の訴求力はありませんからね。

てなことを考えていると…むむむ…やたらと実物が見たくなってきました。今週の休みは一日だけなのですが…だからこそ腕時計を…プレザージュを見に行きましょう!!

そんなワケで、東京に異動になってからの私の腕時計情報源の一つ「新宿の某デパート」へ散歩がてら行ってきました。家から歩いて12、3分ってところです。脇目も振らず腕時計売り場のある階へ行く私(;´∀`)

そして脇目も…で、セイコーさんのブースへ。おー!あるある。普通に「プレザージュコーナー」が出来てるじゃないですか。

まず、第一印象…良いですか?

海外の名だたるブランドが集まった腕時計売り場なのですが、全然タメ張れてます。セイコーさん的にはGSやクレドールよりは下のシリーズなのでしょうが、「プレザージュ」のショーケースの充実っぷりには目を見張るものがあります。なんかもう…質感が凄い。

それもそのはず…ただでさえダイアルの「ギョーシェに命かけてます」みたいなモデルが多いブランドなのに、そこにあったのは日本伝統の技工を凝らした、さらにスペシャルなモデルだったのです。故に「高見え」が半端じゃなかった。

てなワケで、私が衝動のままに腕に乗せてきた「プレザージュ」の名機たちを見てもらいましょうかねぇ(*´∀`*)

Cocktail Time SARY123

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(SARY123)

カクテルタイムの…というか「プレザージュ」「基本形」がコレ。「プレザージュ」編入のタイミングで、マイナーモデルチェンジが行われています。

希望小売価格「51,700円」で、このレベルのダイアルですよ。サンレイを超えたサンレイとでも呼べばよいのか…とにかくめちゃくちゃキレイです。

インデックスも立体感と視覚的な重量感があって、3針なのに見ていて飽きない面構えだと思います。ハンドも高級感ありますね。

ケース幅は40.5ミリ。大きいのかなぁ~と思っていましたが、このダイアルを存分に楽しむには、むしろこのくらいの径が必要かもしれません。

防水は5気圧。風防素材が「ハードレックス」なのが残念ですが、ケースもブレスも価格以上の作りです。特にブレスはなめらかで肌に馴染む出来の良さを感じました。

ムーブメントは「4R35」。パワーリザーブは41時間。何の不足があろうか!って感じですね。カクテルの「ブルームーン」をイメージして作られた「SARY123」。いやもう本当に美しくて、ほとんど「下戸」の私も良い感じで酔わせてもらいました。誠に贅沢すぎる「入門機」じゃないですかねぇ~(*´∀`*)

Sharp Edged Series SARX083

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(SARX083)

ダイアルには和装の柄として歴史のある「麻の葉紋様」を模したギョーシェ。セイコーさんらしく、直線を主体にしたケースとブレスレットの面取り。長く重量感のある針の存在感。それらは渾然一体となって、高級時計だけが着用者に要求する「緊張感」を私にも求めてきました。何というか…「良い時計を着けてる!」という強い充足感があるのです。それはロレックスやオメガ辺りに感じるものと、さほど変わらないように思いました。

搭載するムーブメントは名機「6R」の系譜キャリバー「6R35」。精度も高く、パワーリザーブも70時間を誇る申し分のない性能です。

ケース幅は39.3ミリ。「SARX083」に関しても「大きすぎる」などの不満は全くありません。やっぱりダイアルの存在感が全てを引き締めて、隅々までデザイン的な間延びを感じさせないからでしょう。

防水も10気圧ありますし、風防も「サファイアガラス」です。要するに「キレイな時計だけど、臆せずガシガシ使ってね!」ということです(*´∀`*)

価格は「110,000円」。実際に腕に乗せてみた私の感想は、「そりゃあ、それくらいはするやろ!」でした。新型6Rが載ってこの価格なら全然アリです。

しかしまぁ…セイコーさんはダイアル作りに開眼したのかなぁ。どれもこれもすんごい素敵です。

琺瑯ダイヤル スプリングドライブモデル SARR003

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(SARR003)

戦後日本のプロダクトデザインを大きく飛躍させた功労者のお一人である「渡辺力」氏の感性を琺瑯という細かな成形の難しい素材の上に再現した「地味に凄い一品」です。心臓部はセイコー自慢の「スプリングドライブ・キャリバー5R65」。セイコー製でありながら、醸し出す一点物の「手作り感」はまるで独立時計師の作品のようでした。

養生が邪魔で琺瑯の艶めかしい凹凸を見てもらうことが叶いませんが、これはもう是非、本物をご覧になって下さい。インデックスの書体や針の形状、そして琺瑯の柔らかな質感に魅了されるはずです。

ケースは美しい鏡面に繊細な曲線を描くラグが雰囲気満点です。ダイアルの凝った作りと合わせて、「プレザージュ」のイメージを大きく底上げする作品なのは間違いありません。

ちなみにストラップの革は「コードバン」でした。一番ごまかしの効かない革種を持ってくる辺りに、セイコーさんの自信を感じますね。

ケース幅は40ミリ。意外にも10気圧防水を確保しています。風防は「デュアルカーブサファイア」。価格はさすがに立派な「528,000円」です。しょうがない。これはこのくらいはしてもしょうがないです。しかし…マジで欲しい(;´∀`)

有田焼ダイヤルモデル SARW049

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(SARW049)

これで最後です。

写真で見るとそれが「琺瑯」「有田焼」かなんて解らないですよね?でも実物を見れば一目瞭然ですからご安心を。

国産初の腕時計「ローレル」をオマージュしてデザインされたこのシリーズ。よりローレルっぽいシンプルな3針「SARX061」も用意されています。とはいえ、ケースデザインのアウトラインを見る限りは特段の個性は感じられません。

この時計の印象はとにかく「抜けるようなダイアルの白」に尽きるでしょうか。12時の「赤」、針の「青」がさらにダイアルの白さを引き立てて、とても静謐な印象をもたらすのです。それは高級な器として、日本茶や料理を美味しそうに引き立ててきた「有田焼」に与えられた「晴れ舞台」なのかもしれません。「高級時計の顔」になれるんだもん。

それにしても各種インデックスの細かい絵付けはどうです。「200,000円」という価格からして手書きではないでしょうが、釉薬の風合いも随所に感じられる見事な出来映えでした。異素材使いで価格を釣り上げるメーカーも少なくありませんが、明らかに難易度の高そうな有田焼でダイアル作って20万円ですよ。私はぶっちゃけ「この満足感だったら安い!」と思いました(ただ、ほぼ同じデザインで琺瑯文字盤の「SARW035」は12万円だったんですよねぇ…)

キャリバーは「6R27」。曜日や日付、パワーリザーブの表示が可能なムーブメントです。パワーリザーブは45時間。多くのプレザージュに搭載されている実績があります。

防水は10気圧を確保。ケース幅は40.6ミリです。クロコのストラップも中々のシロモノでしたよ。

如何でしたでしょうか?

「プレザージュとは何ぞや?」の答えですか?う~ん…実物を纏えば見つかるかとも思ったんですけどねぇ。

タイトルでは「プレザージュ」を部隊に見立てて、その規模から「旅団」などと呼称してみました。ただ、幾つかの実物に触れて思ったのは、もしかすると「プレザージュ」は細かい規律によって縛られた正規の部隊などではなく、規格化されない「外人部隊」のような集まりなのではないかということです。決まっているのは唯一、「価格以上の価値を持つ機械式腕時計」であることくらいかもしれません(スポーツモデルは作らないかもしれないですね。「X」と被っちゃいますから)

困難な状況で激戦の最前線に送り込まれ、戦局を有利に導くエトランジェ。先行きの厳しい腕時計業界ですが、日本の機械式の行く末は「プロ中のプロ」である「プレザージュ部隊」を信じて任せてみましょう!

果たして次はどんな一手を打ってくるか…「プレザージュ」誠に楽しみですなぁ(*´∀`*)

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