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不器用な腕時計に惹かれる私の「根っこ」

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私の社会人としてのキャリアは「建築デザイナー」の肩書から始まりました。「建築家」でないところがミソでして、内観にしろ外観にしろ、私は無責任で突飛なアイデアを提供するだけ。そのツッコミどころありまくりのデザインを、まともな建築士の人がちゃんと「住める」ように考えてくれて…そんないい加減で都合のいい立場で、建築業界と関わって生きていました。

京都のある料亭の改装に参加した時には、入り口の小砂利道のアチコチに暗めの照明を仕込んで、その上に敷いた分厚いガラスかアクリルの上を歩けるようにしたい!とマンガみたいなアイデアパースを描いて関係者の顰蹙を買いましたし、他にもアチコチの仕事でファンタジーすぎるアイデアを出しまくって迷惑をかけました(汗)それでも「訳わからんけど面白い」と言ってくれる偉い人がいて、職人さんにも可愛がってもらってたので、何とかかんとか自分の居場所が確保できていたワケです。ちなみに鉋掛けと丸ノコはその時の職人さんの下で修行させてもらったので、何気に得意技です(笑)

結局、安全設計という意識が希薄すぎた私は、「このままではいずれ施主様を殺しかねん!」という恐れとプレッシャーから建築の仕事を廃業しました。そもそも「パース」をやってるときが一番楽しくて、誰に見せても「作品やな!」と評価が良かったこともあって、カンプとイラスト、さらにはグラフィックデザインを生業にリスタートしたのです。やってみるとこれが実に自分に向いている仕事でした。手描きカンプの仕事自体は数年で世の中から消えましたが手間の割にギャラが良く、カンプの教本にも私の仕事が何回か載ったりして、何気に誇らしかったのを覚えています。名前が世に出た最初の仕事でもありました。

気が向いたら受けるくらいの頻度だったイラストの仕事は、あっという間に数件の雑誌を掛け持ちするほどの忙しさになりました。ページ単位で発注されるようになると、絵だけではない「文章」の仕事も回って来るようになります。私の「売り」「マルチロール」でしたので、自分でイラストを描いてレイアウトをやって、ついでに取材に行って文章も書いて…みたいなことを平気でやっていたのです。

そういう私の仕事っぷりを中には好意的に「多才」と呼ぶ方もいました。でも実際はそんなに良いものではなかったのです。私の「マルチ」は一個のティーバッグで5杯連続して紅茶を入れちゃうようなものでした。一つ一つの味は薄くてしょぼい。それでもクライアントさんからすれば、頼んでおけば「たくさんの仕事を低コストでやってくれる便利なヤツ」…それが私でした。う~ん…我ながら書いてて情けなくなってきた(;´∀`)

そんな私の「マルチな部分」に凄さを感じて「多才」と呼んでくれるのは嬉しくもありましたが、心のどこかで私は長い間、自分の安っぽい「多機能」が嫌でたまりませんでした。

多機能が必要に迫られて身に付けたものならば、私も誇りを持って自分のマルチロールを受け止めていたと思います。しかしながら実のところは、「一本で勝負できない」ゆえに仕方なく増やした機能でした。

スポーツ選手でも芸術家でも科学者でも何でも「自分はこれしかできなかった」と言える人には魅力を感じます。先日読ませてもらったウェブニュースに辰吉丈一郎さんの記事がありましたが、彼の「ボクシングしかできない!」と言い切れる「凄み」には、毎度のことながら感服させられます(辰吉vs薬師寺戦は私が観戦した中では最高の試合でした)

生活者としては本当にダメな人(辰吉さんのことじゃないですよ!)でも、例えば、落語をやらせたら天下一品!なんて、それこそもの凄~く格好良い。そもそも古今東西の偉人はだいたいそんな感じの人物が多いですし、「〇〇なら〇〇」と世の中から評価されるようになった人だけが後世に評価されると思います。

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腕時計にも同じことが言えると思います。「3針ノンデイト」なんてそれこそ私の大好物。「2針」になるとどこか気高さすら感じます。秒針さえも省いて純粋に時間の流れに身を任せた潔さはまるで剣のみに生きるサムライのようです。針が一本しかないワンハンドが主力の「マイスタージンガー」の時計なんかを見ると「こういう時間の中で生きてみたい!」と心から思います。シンプルな時計ほど、ミステリアスで奥深いものを感じさせてくれます。

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弊ブログで何度も標榜してきたとおり、私はあまり機械式腕時計の「中身」に拘るタイプではありません。そもそも機械式である時点で、その「時を刻む才能」にそれほどの期待を寄せてはいないのです。「正確に時を刻む」こと以外に時計の中身の高性能を測る目安が存在しない以上、「自動巻きとして」云々の性能比較に、どれほどの意味があるでしょうか?

例えば、抜け目なく生きる人の人生には客観的な魅力が乏しいものです。腕時計も同様に、便利な機能を満載して如才なく何でもこなすものには、魂に訴求する「何か」が足りません。便利で多機能なクオーツ時計を買ってしまうこともたまにはありますが、私が欲しいのはいつだって「ちょっと不器用な時計たち」なのです。

「他に取り柄はないけれど、一生懸命働きます!」という姿勢を全面に出す若者の姿は、大人たちの好感を呼ぶものです。企業側が「一緒に働きたい!」と思わせる人材は、時代は変われどこういう人たちのことだと思います。不器用な「単機能の時計」にも、それに良く似た好意を感じます。「助けてやりたい!」「寄り添ってやりたい!」と思っちゃうのです。

その昔…20歳代の頃に一緒に暮らしていた黒ネコがいました。高いところと狭いところが苦手という、ネコにあるまじきネコだったのですが、他にも、まあ何かに付けて鈍くさい。野良猫として生まれて過酷な子猫時代を送ったからでしょうか、人間や他の猫たちともうまく付き合えない性格をしていたのです。

それでも私に対しては「面倒見てくれ」感を必死にアピールしてくる。甘えた声で鳴くこともできず、極短く「ギャ!」としか鳴けない姿に私も当初は「なんちゅうダサいネコなんや!」と情けなく思っていました。

ところがしばらく一緒に暮らしてみると、何とも言えない「味があるネコ」だということが判明。床まで黒にコーディネートされたインテリアの部屋に、黒ネコのそやつはあっという間に馴染んで、すでに10年も一緒にいるかのような絶妙なポジションで住みついちゃったのです。

基本的に贅沢を知らないネコなのでどんなネコ缶でも平らげてくれましたし、爪とぎもほとんどやらない。いつまでたってもトイレは覚えてくれなかったけど、とりあえず膝に乗るのは上手になった。

「出来ることが少ない」存在ってヤツには、何とも言えず「愛おしい」という側面があることをその黒ネコが教えてくれたのです。

そういえば私、SAMSUNGのスマートウォッチ「Gear S3 frontier」を持っています。オリジナルのウォッチフェイスを多数作ったりして一通り遊び倒してみましたが…結局、数ヶ月で飽きてしまいました。やろと思えば何でも出来ちゃう「天才っぷり」に、自分には縁遠いものを感じたからです。

「Gear S3 frontier」は比較的時計っぽい見た目と、時計っぽい使い勝手が特徴でしたが、それでも私はそれを「腕時計」だとは思えませんでした。腕に巻いて外出したときに、腕時計に対してなら必ず感じる「高揚」が全く得られなかったのです。アプリで幾らでも機能拡張できてしまうような如才のなさに対して、こりゃあ腕時計と同じようには愛せないなぁ~と思ってしまったのです。スマートウォッチをお持ちで、同じように感じた腕時計好きの方も多いのではないでしょうか?

優れたツールとして考えるなら、スマートフォンを中核とした生活の中で、更に身近に情報を共有するウェラブルデバイスの存在は便利で頼もしいものです。上手にお使いで、最早なくてはならないところまで慣れ親しんだ方もいらっしゃるでしょう。ところが私の場合は、まさにその「便利さ」が余計なものに感じられたのです。

それは私から見ると、時計として或いは超小型コンピューターとして、とても中途半端な存在に見えました。無くても構わない機能の数々で飾り立てられたスマートフォンは、単一の機能と魅力で勝負できないという点で、私自身の姿と重なります。結局は古くなって機能が物足りなくなればあっさり捨てられてしまう運命も、私自身が長年危惧する悲惨な晩節を思い起こさせます。ひぃ!何だか暗い話になってきたよ(´;ω;`)

その点、そもそもシンプルな機能しか持たない腕時計は、古くなろうが傷だらけになろうが、その本質が変わることはありません。それもそのはずで、追求すべき本質が「時間を知る」だけなのですから、その機能を満たしている以上、むしろ「古いくせに凄い!」といった価値観も存在します。その「不変性」こそが素晴らしいのであり、私が単純な時計に深く魅せられる所以だと言えます。

器用貧乏の典型である私が、性格的に正反対の不器用な腕時計が持つ「一本気」なところに惹かれるのは、一種のコンプレックスかも知れません。できることが少ないがゆえに感じさせる「不惑」にあやかりたいと思うのも無理からぬことなのです。

複雑時計より3針。できればノンデイト。単機能で勝負できるならその方が上等だという信念があるかぎり、私の嗜好は今後も簡単には変わらないと思います。

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