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腕時計デザインの「オリジナリティー」を考える

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 Amazonの検索でザクッと「腕時計」を引っ掛けますと、出るわ出るわ…オマージュ(要するにパクリ)時計のオンパレードです(汗)

 そんな時は「腕時計デザインのオリジナリティーって何なんやろ?」ってな感じで、途方に暮れる自分がいます。

 うちの腕時計の中で言うと、この辺りが強烈なオリジナリティーを持つヤツらでしょうかね?

 

個性的な腕時計たち

我ながらマニアックな趣味ですねぇ(汗)

 

 例えばですが、美術やデザインの世界だと声高に「オリジナリティー」を叫ぶことは無粋だと言われています。

 どこぞの美術出版物でどこぞの有名評論家が「数百年前にあらゆる美術表現は出尽くしているのだ!」なんてことを宣っておりました。そう言われるとそんな気がしてくるから権威ってヤツはホント厄介です。

 

 近年のCGの急速な発展もありまして、発想表現の制限は各段に取り除かれました。映像然り、印刷物然り。

 立体物の試行錯誤も、3Dプリンターを使えば10年前の100分の1の労力で、高精度なモックアップができちゃうのですから楽勝も楽勝のはずです。

 そんな恵まれた現状にあっても、腕時計のデザイン(特に中華や新興ブランド)にはオマージュなデザインが乱立しています。私はこれ、同じクリエーターの一人として、常々とても残念に感じています。

 

 例えば…プロレスの必殺技には多種多様の固有名詞が付けられますが、実は古の技にほんの少しアレンジを加えた物だったりします。中には何一つ変えずに自分の技として名前を付けちゃうレスラーもいます。それだけ最近のレスラーたちが器用になっているという証ではあるのですがね(;´∀`)

 

 それが悪いことだとは思いません。でもそれって「オリジナル」とは言えませんよね?

 

  近年のアートに関しても私は同様に思っています。テクノロジーを使いこなして少々器用になったアーティストが「これが新時代の表現だ!」なんて思っているとしたら、それは勘違いだとしか言えません。

 平面、立体…大型の建築物も含めた現在のアートワークは、そのほとんどが悪い言葉で言うと「焼き直し」です。それも「生焼けの焼き直し」だと思います。

 

 私も若いクリエーターの面倒を見て(見させられて)長いですが、若い人には若い時分にしか持てない欲があります。それが自分だけの「オリジナル」を確立したいという欲です。

 そういう人には「とりあえず30歳までは自由にやってごらん」と伝えます。それはほとんどの場合「ムダ」に終わるのですが、それを知る期間が必要なのです。それは自分を見つめる時間というか…自分の器の大きさを知る時間。なので「盛大にムダをやってこい!」なんて感じでけしかけます。その時期を経てはじめて素直に「周りが見れる」ようになるのです。

 その後はとにかく「模倣」です。マネをしまくってもらいます。だけど、ただマネをすれば良いってものじゃない。常に「自分ならもっとこうするのに!」という色気を常に出しながら他人の描いた「絵」をマネてもらうのです。

 センスのある人なら数年で「良質の焼き直し」ができるようになります。ただの「マネ」からは何も生まれませんが、「自分のセンスを加えた焼き直し」には新しい価値が宿ります。そしてそれこそが「メシの種」になる武器なのです。

 

 

 

 前置きが長くなりましたが、腕時計のデザインにも「良質の焼き直し」って物が幾つも存在します。もちろん良貨ばかりでなく悪貨もたくさん存在しますが、それもまた「腕時計世界」の楽しいところ。キラリと光る「焼き直し」を発見したときの興奮は口では言い表せません。

 特に「ダイバーズ」「パイロット」には泣かせる「焼き直し」が沢山あります。「好きすぎてこんなの作っちゃった!」なんて感じが出てる時計は特に最高です。親の仕草を真似する子供みたいなもので、何やら愛おしさすら感じます。過去のアーカイブを紐解いて、現代風のアレンジを加えた時計の中には特に「良質の焼き直し」が数多く存在するのです。

 

https://images-na.ssl-images-amazon.com/images/I/41UrERwqT5L._AC_.jpg

 

 良いですね!当時の泥臭い感じも再現されているので、タイムスリップしたような気持ちになれます。 同社内の復刻も悪く言えば「焼き直し」ですが、血筋を感じるなら許されるのです。

 

 このオリエント「キングダイバー」の復刻などは、そもそも自社のアーカイブを参考にしていますし、すでに入手の難しい「過去の名品」に触れる機会を私たちに与えてくれる素晴らしい企画だと思います。本数限定なのも痺れますよね(*´∀`*)

 

 逆に「やっちゃったねぇ」と悲しくさせる時計もあります。それが先程私が例に上げた、ただ「マネ」をしただけの産物です。

 現代の時計は相当凝ったフォルムをしていますから、ぶっちゃけただのマネでも大層難儀するはずなんです。それなりの工場でそれなりの工作機械で、十分に経験を積んだ技術者が作っているはずなんです。例えばコレとか…

 

https://images-na.ssl-images-amazon.com/images/I/81qw87%2BWvwL._AC_UL1500_.jpg

 

 ロイヤルオ…ですよね?せめてねぇ…ダイアルのギョーシェとかリューズとかで差別化できてれば、私だって何も言いませんよ…良くできているだけに「少しは外してこいよ!」と言いたくもなるのです( ー`дー´)

 

 どこぞの人気時計をそっくりマネた時計を見るとき、たとえそれが「スーパーコピー」のような悪意の塊ではなかったとしても、私は「もったいない」としか思えません。作った時間がもったいない。使った素材がもったいない…

 もちろん「誰も見たことのない時計」なんて簡単には作れません。「閃いた!」と感じても歴史を知るものが見れば必ず「元ネタ」が存在するはず。そしてそれすら完全な「オリジナル」かどうかは怪しいのです。

 厳密に言うと「模倣」「コピー」は違います。しかしいずれも、例えどれだけ良く出来ても正当な評価が得られないことには変わりありません。それは腕時計のみならず、全てにおいてそうなのです。

 

 私は腕時計デザインの「独自性」について言えば、それは「発想の転換」に尽きると考えています。「コツン!」と頭を小突かれるような、または「ぐりん!」と目線を変えられるような…そんなプロダクトに出会った時こそ、私はその逸品に「これは目新しい!」と感じるのです。

 それは、うまく言えませんが…絶対不可能な完全オリジナルに挑む「気概」のような物だと思っています。無駄だとわかっていても「度肝抜いてやる!」みたいな気持ちを失ったら、物作りは「終わり」です。

 

 例えば、欧州人が初めて「浮世絵」を見たときの衝撃はトンデモなかったでしょう。それは閉ざされた島で独自進化した動物のようなもので、人物表現や描線、構図、そして欧州人からすれば訳のわからない大量の文字情報。驚いたと思います。全く異なる方法論で極致にたどり着いた奴らがいたのですから。

 「なんてオリジナリティーだ!」そんな風に受け取った欧州人は多かったはずです。しかし実際は1862年のロンドン万国博覧会で披露された浮世絵は日本人にとってはただの「ブロマイド」でしたし、それですら市井では廃れかけのものでした。つまり「未知のもの」だというだけで「オリジナル」になり得るのです。世界中がリアルタイムで繋がった現代ではちょっと考えにくいことですが…

 

 腕時計の「製造・販売」はリアルなビジネスですから、売れ筋に寄せていくのはしかたありません。しかし、例えばコレみたいな…

 

https://images-na.ssl-images-amazon.com/images/I/71S5I%2B9cd%2BL._AC_UL1500_.jpg

 

 ノーチラ…ですが…ね。恐らく元ネタを知らないイノセントな人が見たら素直に「カッコいい!」と思っちゃいますよね?一見、細部までもの凄く良くできた時計に見えますが、秀逸な元ネタを忠実に模倣すれば、素敵なのは当たり前です。 

 ここまでの時計が作れるなら、何故に模倣に頼るのでしょうか?売れれば良いからと言うのであれば、もう少しオリジナリティーを追求した製品で高い評判を取って、ブランドバリューを上げれば良いじゃないですか?

 

 模倣はある種の麻薬のようなもので、一度味をしめると容易に抜け出せない魅力があります。腕時計の世界も模倣で溢れていますが、ほんの少しでも「まともなブランドになりたい」欲があるのなら、ロイヤルオーク(風)でもノーチラス(風)でも良いので、そのものズバリからは少し距離をおいた時計を作って欲しいと切に願います。あまりにドンピシャで作られちゃうと、何というか…可愛げがないのです(;´∀`)

 

 「独自性」の追求に関して、浮世絵師の世界は参考になります。徹底的な模倣の繰り返しに自分の「味」を加える手法は、現代の腕利きクリエーターのそれと全く同じです。さらに彼らは常に移り気な江戸っ子の「流行り」に応えなければならなかったわけで。

 長い時間をかけて完成させた折角の「独自性」が、時間の経過とともにいつのまにか「陳腐化」していた…なんてことはアートの世界ではよくあることです。元ネタのオリジナルですらそうなのです。そしてそれは「模倣芸の限界」も端的に現しています。

 

私はAmazonに乱立するオマージュブランドの中の人に言いたいです。

「腕はあるんだ!独自性で勝負してくれ!」と。

 

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