今現在、「CITIZEN」の時計は一本も所持していません。80本近い新旧の腕時計を持ちながら、なぜか「CITIZEN」の時計が抜け落ちているのです。
日本で腕時計のメジャーブランドといえば、「SEIKO」「CASIO」「ORIENT」そして「CITIZEN」ですが、何の意識もなしに「CITIZEN」だけが外れてきた背景には、潜在的な理由があるようにも思えます。ここ数日ぼ~っとそんなことばかり考えていまして、今日はその辺りの考察をまとめてみたいと思います。
私が「CITIZEN」で思い出す唯一の時計は、2カウンターのムーンフェイズ、SSのケースにブラックのカーフベルトが付いていた時計で、大学入学で上京して間を置かずに買ったものだと記憶しています。幅は40ミリもなかったような…「日の出日の入り」表示もあったはずで、昼と夜で印象の変わる面白い時計だったと記憶しています。
そしてそこから「CITIZEN」と縁がないのです。仕事が軌道に乗って小金を得るようになってからまあまあ頻繁に腕時計を買っていたにもかかわらず、「CITIZEN」だけは蚊帳の外だったのです。意識的に避けたことは一度もなし。何かのトラウマに縛られていたわけでも。
そう言えば10年ほど前に「The CITIZEN」が欲しかった時期がありました。もちろん機械式、オートマチックのヤツです。
ご存知の通り、「ザ・シチ」は「グランドセイコー」の比較される高級タイムピースのフラッグシップです。その欲しかった時期にどこだっけか…確かビックカメラだったと記憶していますが…その家電量販店の時計売り場でその二種類のフラッグシップを並べて比較する機会がありました。
量販店の時計売り場自体はあまり好きではありません。ガヤついている小うるさい空間で冷静に高級時計の良し悪しを見極められるとは、到底思えないからです。
ですので、「ザ・シチ」と「GS」を比較したといっても、細部まで徹底的に見たわけではないということを、先に断っておきたいと思います。ただ、腕時計が欲しいと強烈な暗示にかけるには何はおいても初見、「ファースト・インプレッション」が大事なのは確かなことです。
その点においては「GS」の圧勝でした。販売スペースのカウンターの作りや印象も加味されていたかもしれませんが、「GS」には「お宝感」がありました。よくあるセイコーの時計の顔だけど、血統の良さがハッキリと見て取れました。「貴族的」といっても良いかもしれません。
対して「The CITIZEN」はというと…同ブランドの下位ラインアップの時計と比較して、一見したところの突出した差を見い出せませんでした。販売スペースの作りもセイコーに比べて地味だったと思います。
では「ザ・シチ」と「GS」の直接対決ではどうか。
この時比較したモデル名はどちらも忘却の彼方で申し訳ないのですが、2つともよく似ていました。「ザ・シチ」が「GS」を真似たのだと思います。あ、そうだ思い出した。GSはロングパワーリザーブの9S65搭載機だったと思います。確かそんな説明を聞いた記憶があります。
「それでもザ・シチズン選ぶ人は、根っからのシチズン信者だな」正直言って、そんな風に感じました。肉薄はしています。そして「ザ・シチ」の方が少し安い。だけどこのクラスの時計を買う人が、少し安いから「ザ・シチ」にしようなんて思うかは別の話です。
私は「天の邪鬼」なのでアウトローやハグレ者が好きです。セイコーを軸にして考えるなら、アウトローは座は「CITIZEN」が担わなくちゃいけない。プロレス黄金時代的に言えば、セイコーが「本隊正規軍」で、ならば対する「CITIZEN」は敵対するヒールユニット「nWo(New World Order)」にならなくちゃいけなかった。
そう、「CITIZEN」はずっと長い間、ものすごく物わかりの良い「2位」だったのです。10年前のあの日、「ザ・シチ」と「GS」を比較した時、私は「CITIZEN」がいささか諦観気味に「2位に甘んじている」と感じたのです。この気持が暗示となって「CITIZEN」の時計を敬遠させていたのでしょうか…(;´Д`)
ところが最近、「CITIZEN」の「nWo化」が進んでいるように思えるのです。海外のどちらかと言えばクセの強いブランドを取り込んで、そのエッセンスを自分たちのラインアップにジワジワと反映させてきてるのではないかと。
2007年の「ブローバ」買収や「ラ・ジュー・ペレ」「アーノルド&サンズ」の獲得。2016年の「フレデリック・コンスタント」買収にはその目の付け所にニヤリとさせられました。また、ライセンス物やセカンドラインの充実にも力を入れて、腕時計に興味の薄い層の切り崩しにも躍起です。これは2位に甘んじていた頃の戦法ではなく、何というか…一種のゲリラ戦…プロレスならば場外乱闘や凶器攻撃です。ヒールだ。ヒールの匂いがする。
技術は世界屈指、チタンのコーティングや電波時計の分野では世界一です。足りなかったのは世界的な評価、名声ですか。その辺りを歴史のある「ブローバ」や近年注目を集めていた「フレデリック・コンスタント」の買収で変えていこうとしているのでしょう。もちろん買収によって得られる技術資産も重要です。
このやり方は蝶野正洋さんが新日本に「分隊抗争」という概念を持ち込むことに成功し莫大な経済効果をもたらした社会現象「nWoフィーバー」に似ている気がするのです。海外でビッグネームとして確立したブランドを輸入し日本のブランドとして再構築。チームが人気を獲得するのと平行して、個性豊かなキャラクターをも巧妙に売り込む。
プロレスに詳しくない方にはピンと来ないかもしれませんが、プロレス好きでもなんでもない一般人を巻き込んだ一大ブームだった「nWo」の勢いは、本当に凄まじかったんですよ。近所の肉屋さんのおばちゃんが「nWo」のロゴ入りTシャツを着ていた時はビックリしました。「これ、プロレスのTシャツなん?」って聞き返された時はもっと驚きましたけど(,,゚Д゚)
最近の「CITIZEN」はそれほどセイコーを意識することもなく、面白い時計を作っています。「ATTESA」なんかは当たり前にカッコいいのですが、特に海外市場向け製品。私も「これはいいなぁ~」と思える時計が多数存在します。その辺を中心に私自身がグッとくる時計を幾つかピックアップしてみましょう。
最初はずっと前にAmazonのリストに入れたこの時計。
超竜「スコット・ノートン」級の迫力ボディ【BL5403-03X】
良いですなぁ。このクドさ加減。立派なヒール感が漂います。毛むくじゃらの腕が似合いそうな男臭いこの時計、「nWoジャパン」のメンバーで例えるなら筋肉担当「スコット・ノートン」。幅48ミリと大型ですが、スコットみたいに爆裂マッスルボディーな方なら、ボーイズサイズにだって見えちゃうでしょう。ソーラークォーツ。
地味な風貌に個性が光る「ヒロ斎藤」的なオートマチック【NH8385-11E】
ほほぉ。こういう面白い時計もあったのか。アウトラインは地味な時計ですが、所々に個性的で面白い箇所がありますね。インデックスとか変わり種です。44ミリ幅のケースは少々大きめですが、印象的なベゼルや存在感のあるダイアル周りのおかげで間延びした印象はありません。防水は10気圧なのでダイバーズとは呼べないかもしれませんが、シティーユースで不満は無いでしょう。これ一本でどうにかなるタイプの時計ではありませんが、視認性も抜群ですし間違いなく名バイプレーヤーな仕事をしてくれる時計だと思います。「ヒロさん」的なポジションですね。
肉厚のステーキの如き存在感は「天山広吉」を彷彿とさせる【CA0288-02E】
肉厚のラバーストラップが高級ステーキ肉を思わせる一本。猪突猛進型に見えて意外と器用に他人の技も使えてしまう隠れテクニカルな「天山選手」のように、多機能かつ視認性抜群の使えるクロノグラフです。粗野な言動の奥に隠しきれない人情味。家族思いで人格者のあなたに。
思う存分豪腕を誇示(コジ)できる「小島聡」的クロノグラフ【AT8125-05E】
ケース幅43ミリ。コジカラーであるオレンジを差し色に使ったゴツいながらも落ち着いたクロノグラフです。ゴツゴツしたケースデザインも太っとい腕なら似合うはず。胸筋ピクピクさせちゃうマッチョマンながら、どこかキュートさを感じさせる「小島さん」のような趣きの時計ですね。
ミステリアスな「グレート・ムタ(武藤敬司)」の世界に幻惑されたし【AV3006-09E】
なんだろう、このもの凄い「ムタ感」は(笑)
詳細情報がなくてどんな時計なのかもさっぱり解りません。ザ・ミステリアス!もしかしたらインダイアルのどれかから毒霧が噴射されるかもしれないのでお気をつけて。それにしても表面的なデザインからはどこを目指して作られた時計なのか皆目検討もつきません。タキメーターにムーンフェイズ?24時間計も…正体不明です。何となくオリエンタル、さすがはムタワールド!
スタイリッシュでちょいワルなヒール像を腕に「蝶野正洋」【AT9085-53E】
最後は「黒の総帥」アイム・チョーノ!
もちろん全身ブラック。チタンじゃありません。重たいステンレスです。実は冷静な常識人として知られる「蝶野さん」の如く、ごちゃついたスポーティーなダイアルでありながらさりげないローマンインデックスで律儀な感じも。地味にパーペチュアルカレンダーだったりするのも、プロレスをビジネスとして成功させた総帥らしいソツの無さです。それでいて漂う「ちょいワル感」。
いろいろ探してみて「CITIZEN」には黒くてカッコいい時計が多くあることに気が付きました。黒といえば「悪」、悪といえば「ヒールユニット」です。
最近のプロレスはどこもヒールユニットの方がいわゆる正規軍よりも人気があります。実力的にヒールのほうが上回っているというのもありますが、やはり老若男女問わずワルに惹かれてしまうのは、悪いヤツの「斜に構えた」感じがどこか放っておけない気にさせるからでしょう。苦しいクセにやせ我慢で強いセリフを吐き続ける…私としては「CITIZEN」には世界に冠たる「トップヒール」として、正規軍の「セイコー」を向こうに回してハラハラドキドキの戦いを繰り広げてほしいと思います。
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